ゆっくり目を開ける
今までで一番不思議な朝
見上げる天井は見慣れたものではなくて
隣にいる人を肌で感じる
卒業編〜禁忌の園の結末は
影貴は起きる為に躰を上げようとした時自分の姿を思い出し、蒲団を躰に押し付けた。服が有る場所は解っていた。しかし大きい上に高いベッドからでは手を伸ばしても届かない。まだ隣の人は寝ている。起こさないように…影貴は服の裾に指をかすった…その時
「ぅ〜ん…」
響が寝返りを打ち、掛け蒲団を取られてしまった。
影貴はゆっくりベッドから這い出し、響のコスメチェストの中から全身に塗れる化粧水を取り出した。レースを残してカーテンを開け、朝の光を浴びながら霧吹きで化粧水を躰に振りかける。水滴がキラキラと朝日に反射した。
「影貴ちゃん?」
ゆっくり振り向くと目を覚ました響がこちらを見ていた。
「ごめん、起こしちゃった?」
「ううん、朝露に戯れるリアルな妖精だなぁ、と思ってさ…夢の中」
響が楽しそうに笑う。影貴はふと状況に気付き、真っ赤になってYシャツをひっつかんで響になんども叩きつけた。
「バカバカエッチ!みちゃダメ!」
響はハハハと楽しそうに笑い、急に影貴の手首を掴んだ。
「ひゃっ」
躰が元の位置まで引っ張られた。
「な、ナニ…?」
影貴は苦笑いを浮かべる。響はニコッと笑い返した。
「今の見てたら…もう少し一緒にいたくなっちゃった…」
響は影貴の腰を抱き、軽く何度も唇をあてた。
「ぁ…っ……やっ…」
影貴は嫌がって離れようとする。その声を楽しむように響は顔のあちこちに唇を添わせた。少し落ち着くと響は頭をコツンと影貴にぶつける。
「…ゴチソウサマ」
響は影貴の耳元で囁く…影貴は鳥肌が立った。それがわかったのか、響はゆっくり影貴から手を離した。
「もう嫌だって言われると困るからね…もう辞めるよ…」
影貴は視線を反らしたまま響と向かい合った。
「ぁ…あの…っ…私…で…っ」
小さな声を聞き取ろうと響が耳を近付ける。
「泣いてるの…?」
言われて気付く自分の涙。
響は指で影貴の涙を拭うと小さな声で囁いた。
「一応…傷とかアザとかつけないようにはしたから…大丈夫だと思うよ?」
影貴は首を振る。
「僕は嬉しかったんだけど…痛かった?」
心配そうに尋ねてもやはり影貴は首を振る。響は思い付いたように言った。
「あ、お得意の−お腹空いた−かな?」
響は笑った。
「…お得意?」
影貴は首を傾げる。
「だって昔よく…?」
響も首を傾げながら起き上がって影貴をまたぎ、投げられたシャツをひっつかんで裸の上に羽織った。薄い真っ白なシャツが朝陽に影を作り、影貴に反射した。
響は服を着ると影貴にも自分のシャツを渡した。
「それ着てなよ。長いからワンピースになるでしょ?お風呂入って…朝ご飯何が良い?作ってあげるよ。降りといで」
影貴は真っ白で大きな響のシャツを着てベッドから立ち上がった。 響はその姿、その仕種を見て思わず唾を飲んだ。
…いつからあんなに色っぽくなったんだろう…
朝方の風呂の中で影貴は一人、鏡に映る靄のかかった自分の姿を見ていた。昨日の夜と何も変わらない、躰に傷のない自分の姿。でも決定的に違うコト…
影貴は真っ赤になった。
「どうしよう…私…先生と…」
こんな事恥ずかしくて尋乃にも言えない…浴槽の中で恥ずかしさに途方にくれる。
「−何だよ!朝っぱらから風呂か!」
ドアの向こうから掛けられた声に影貴は我に還った。脱衣所に置いて有るのは…響の服だった。
「ったく俺はレポート泊まりでやってたっていうのに悠長に風呂入りやがって…早く出ろ!俺も入る」
…!?ちょっと待って!それって今出ろって事!?影貴は真っ赤になって縮こまる。声も出ない。
「?誰も入ってないのか?」
擾が扉を開けようとした時だった。
「待ちなさい!志魔村擾!貴方を我が嫁覗きの容疑で逮捕します!」
脱衣所に響の声が響く。擾はいきなり入ってきた響の姿に唖然とし、中にいる人の正体を知った様だった。
その後三人で朝ご飯を食べた。
擾は影貴に何も聞かなかった。響がずっと睨まれていたのは事実だが…
昼頃、影貴は誰もいない家に帰って来て、一人で部屋のベッドに寝っ転がった。
昨日の…響の指の感触が蘇る。
全身に鳥肌が立って枕に顔を埋めた。
−お母さん…気付かなきゃ良いけど…−
でも、なんだか嬉しい気がした…
031001改訂