たとえ
それが醜い独占欲でも
構わない
私を捕らえて
アナタという名の鳥籠に
私をさえずらせて
アナタだけの為に
私だけを愛して
アナタだけを愛しているから…

 

 

Humming-Bird

 

 

その小さな美しい鳥は一度好奇心で無理矢理捕まえようと手を伸ばし、逃げられてしまった。
その空虚が淋しくて、今度はゆっくりと手を差し延べた。
その小さな美しい鳥は少し躊躇って、ゆっくりとこちらへやってきた。
手に乗せて、慈しむように優しく撫で、甘い言葉を囁くと、くすぐったそうにさえずる姿が可愛かった。
可愛くて、可愛くて、堪らなく愛しいから、どうしても、手放したくない。
逃げられる前に、その小さな美しい鳥をこの手に捕らえて、籠の中に閉じ込めてしまおうか。
今なら逃げられないかもしれない。

でも、もしこの鳥がそのせいでさえずらなくなったら、どうしようか
自由だからこそ、自分の近くでさえずってくれるのに


彼女から再び逃げられてしまうのが
その笑顔が消えてしまうのが
恐かった…


こんなに臆病になってしまう自分が不思議だけれど…

 

「ねぇ、なにぼーっとしてんの?」
急に話し掛けられて、混沌とした世界に光が差し込んだ。
「いや…なんでもないよ」
「ならいいけど。教職課目はレポートばっかりでやってらんないわ」
「…国家試験に教職まで取ろうって考えが僕には理解できないけど…」
文系教科の方が好きなくせに理系のしかも医療系に進み、国家試験に受かれば一生が保障される職業になれるにも関わらず教職まで取ってしまおうという無茶苦茶なカリキュラムを組んで、高校以上にひたすら勉強している少女は、大学生には明る過ぎる鑑だ。
「だって生徒会やってた時間が空いたからさ。両方とも大学出なきゃ取れない資格だしね」
期待はしていないが案の定自分の為に時間を割いてくれるつもりにはならなかったらしい。
「ま、週末こうやって出向けば先生にも会えるしね」
まるでグリコのおまけ以下な台詞を呟いて少女は借り物の机に向かう。

彼女はいつも前を向いている。
周りなんか気にしていない。
時々振り向いて笑顔を向けるだけ。

その事実に気付きながら、そんな彼女に惚れてしまった愚かな人間は何人いるんだろう。
自分もその一人と気付き、自嘲気味な笑みを浮かべた。
それでも愛しいのだから仕方がない。

後ろからゆっくりと手を延ばし、腕を回して肩に顔を埋める。
「先生昼から元気だねぇ」
左手で肩口の頭を撫でて、少女は笑った。
右側ではカリカリと鉛の歌がする。
数秒、その歌が響いた気がした。
「…終わったよ…」
その一言が、耳元であまりに甘美に響いたせいか…彼は自分の理性の壁が崩れる音を聞いた。

口内から這い出した朱い舌が少女の柔らかい肌に触れる。
「も〜お兄さんしょうがない人だなぁ」
苦笑して、少女は肩に埋まった彼の髪を指先で透いた。

軽い体を抱き上げ、真っ白の布団に降ろす。この部屋の寝具はことごとく白い。
降り積もった新雪のような景色に少女の黒髪が広がった。
シーツにはシワもなく、ベッドが二人の動きに合わせて、軌跡を作り上げる。
紅い唇を何度も啄んで、息が止まるほど深く口付けて、少女の鼓動が高鳴るのを素肌越しに聴き続けた。
抵抗もしない少女の纏う衣を解いて、女性特有の柔らかい肌を撫でていく。
生まれたての子供の様に双丘を口に含み、舌で、歯で、愛を伝える。
少女は動きに合わせ、小さく声を漏らした。
まだ少し余裕を残して軽い抵抗をする彼女の、自分だけが知る一番弱い場所に触れる。
一際体が振動し嬌声をあげた後、少女は魔法にでもかけられたような表情を浮かべた。

「ふふ…腰でも砕けた?」
急所を突かれてしまった少女は動かない。意地悪な笑みを浮かべ、ズボンに手をかけた。
「えっ、ちょっとまっ…」
「自分で脱いでくれるの?」
試すように囁く。彼女に自由が聞かないことは解っているのに…
細い腰とタイトなズボンの間に指を滑らせ、少女の生まれたままの姿をレースごしの日の光にあてる。
黒い髪に映える白磁の肌、華奢な肢体…愛しくて、愛しくて、破壊したくなる。
籠の中に捕らえて、誰にも見せずに、自分だけにさえずりかける小鳥にしてしまいたい。
それは無理だから、彼女は日の光に羽ばたく姿が美しいから、そんな姿が好きだから、
…解っているのに…そんな混沌が渦巻く。
「ねえ、響…変だよ…どうしたの?」
名を呼ばれ、急に視界が明るくなる。
その先には心配そうにこちらを見つめる少女がいた。
「…いや、なんか…いつもと違うかな、とか思って…ゴメン気にしないでっ」
少女は気まずそうに苦笑いを浮かべる。中断させてしまったせいで現実に戻った雰囲気に頬を染めていた。
「敵わないな…」
鎖骨に褒美の朱い痕を遺すと少女はくすぐったそうに笑った。

「…響…私を…貴方だけの為に唄う鳥にして…」

心を見透かされたかのような言葉に思わず顔を上げようとしたが、後頭部にはしっかりと二本の細い腕が廻っている。
一層高鳴っていく鼓動が素肌を通して響いてくる。

「…響…アイシテル…」

自分で言って自分で照れている辺り、言葉に真実身が宿る。
「ベッドで先に言われると立場がないんだけどな…」
緩んだ腕から顔を起こし、右手をゆっくり下へと伸ばす。
「…さぞかし美しい調べで歌ってくれるんだろうね…」
二人は目を合わせ、微笑みあった…。

 

 

たとえそれが
醜い独占欲でも
構わない
キミを捕らえてしまいたい
僕という名の腕の中(とりかご)に
キミにさえずっていてほしい
僕だけのために

どうか
僕を愛して
キミだけを愛しているから…

 

 

 

 

 

 

 

050621
影貴の進路は未定。ベッドの中は名前呼び。改訂したけどなんか意味不明。