雨の音は
 
  私たちの身を
 
  心までをも引き寄せ
 
  決して
 
  離してはくれない 

 

Rainy Day's Connection

 


_____ざぁぁぁっ____

窓の外から音が響く。

机の上に開いていたノートを閉じて立ち上がり、ゆっくり目の前のレースのカーテンをめくると、
案の定小さな雫が窓を打ちつけていた。

「雨・・・か・・・」

そう呟くと、雨音のみが響く静寂の部屋の中に特別な着信音が鳴り響いた。

「・・・もしもし?どうしたの?」

「・・・君に電話する事に理由はいるのかい?」
間接的にでも耳に響くその声に耳許が熱くなる・・・
「・・・ない・・・よ」
「でショ?・・・敢えて言うなら・・・


心ヲ伝エニキタダケサ・・・」


「・・・なん・・・て?」
いつも聞く声の中で
一番艶の掛かった
私だけに囁く低い声・・・

「・・・ワザと云ってるの・・?」
電話の向こうで微笑みの漏れる空気の音がする・・・

「君を

心から・・・


   《 ピーンポーンッ 》


びくっと飛び上がって思わず周りを見回してしまう・・・
「・・・誰か来てるヨ?」
「わ、解ってるっ!」
不機嫌そうにスリッパをならし玄関を開けると・・・


  『こんにちは』


両方の耳に同じ言葉がずれて響いた・・・

「やだっ!ずぶ濡れじゃないっ!」
素早く電話を切ってハンドタオルを渡す。
「今日はたまたま歩いてたからね・・・」
雫だった髪が明かりに当たって艶々している・・・
「ちょっと待って、タオル取って来るからっ」
向きを変えるとふっと後ろから抱き締められ、頬が濡れた。
「まだ・・・ツヅキ云ってないよね・・・?」
広い衿許に顔を埋められると冷たい雫と共に暖かい吐息がかかり、自然と鼓動が高鳴る・・・

「やっ、お母さんがっ」
「いないでしょ?朝まで・・・」
真っ赤な瞳と目が合う・・・

「わっ解った!お風呂いれるからっ!風邪引いちゃうでしょ」
そういうと素直に彼は離れてくれた。
 


「お気に入りの・・・服だったのに・・・」
誰かのせいでびしょびしょである・・・

「じゃあ・・・一緒に洗う・・・?」

脱衣所から出ようとする影貴をぐっと引き寄せた響は、服のままの影貴を浴槽に突っ込んだ。
服が体に張り付き、重みで立ち上がれない・・・
「ちょっとっ!何してんっ・・・」
靄のかかった風呂のドアが再び開く音がして・・・影貴は反射的に後ろを向いた・・・





くしゅんっ


なんで私がくしゃみしてるのよ・・・

「僕は水に濡れるの平気ですから」
けろっと悪びれる様子も無く響は暖かい珈琲を啜る。
外はまだ雨の音がする。
「何しにきたの?」
睨みつけると相手は口許を上げ何時もの笑みを見せた。
「君に会う事に理由なんて・・・
「もういい」
冷めた視線を返す。
「冷たいなぁ・・・なんとなく外を散歩してただけだよ。
雨に濡れた紫陽花が小さな花を沢山咲かせてて、その上で蜘蛛が銀色の巣を張ってたんだ。
綺麗だな、と思ってたら雨が降ってきたんだよ」
マグカップを置くと響は影貴の頭を撫でた。
 
「私・・・寒いんだけど・・・寝ていいかな・・・」
確かに顔色が良くない。
「いいよ」
影貴は腰を摩りながら蒲団にもぐり、うー寒い、と唸った。
「一緒に寝てあげようか?」
その声に肩が上がる。
「や、やめてよーっ、だ、大体このベッドシングルなんだから狭いし壊れちゃうよっ」
声に動揺が現れてしまうのが情けない。

「寒いんでしょ?」
響が背中ごしに微笑む姿が手に見て取れる・・・
 
「抱き合ってれば寒くないよ」
風が背中を通り抜けた瞬間、背中に暖かく・・・重いものが重なった。
が、背筋に悪寒が走る。

「温まらない・・・?」
先程の珈琲のせいか・・・ほのかに暖かい指先が腰をなぞる・・・
「ぞっ・・・ゾクゾクします・・・」
お願いだからそういう事しないで・・・!
「そっか・・・じゃあこれはよくないな」
そういって響は背中を向いている影貴を正面に引き寄せ、広い腕で影貴を包み込んだ。

「これは如何?」
体温が伝わって来る・・・

「アッタカイ・・・」


ゆっくり顔を上げると、響は優しく微笑んでいた・・・


影貴が笑い返すと、後頭部にあった大きな掌が影貴の顎を持ち上げ、響の唇へと導いた

「・・・えっ、あっ・・・んっ・・・」

逃げようともがく影貴を楽しむように執拗に舌を動かす。

「んっ・・・ふぁ・・・」

これ以上は抵抗しても無駄だった。
目の前の相手に唇を委ね、成行に身を任せる・・・


やっと解放された時、二人の間に銀の糸が光った。

「失礼・・・」

影貴の唇を舐め搦め捕った響に影貴は今更ながら目線を反らす。



「・・・バカ」
「ん?足りない?」
わざとらしく聞き返す響の相手をする気力も失せてくる。

「なにさ溜息ついちゃって・・・」
響は呆れると影貴を自分の方に向かせた。

「暖かくなった?」
「・・・まぁそこそこ・・・」

ドキドキしてぶっ倒れそうよ!

「そうか、やっぱり服があると熱伝導率が悪い事くらい首席だった影貴ちゃんには解るよねぇ」
仕方ないなぁ・・・と軽く溜息をつくと、
借り物のシャツをひょいっと脱ぎ捨て影貴の躯に素肌を伸ばす・・・

「ち、ちょっとまって話が違うっ!」

お構い無しに響は首許に小さな花々を咲かせ、その上を舐め上げる・・・

「今日の景色みたい・・・」

自分にだけ見せるあの笑みに影貴はただただ赤面するのみだった・・・



 
 
 
 
 
「罪なオトコだね…」

そんな囁きが聞こえた。

 

そうかな・・・?


でも
 
こうして出会えた事が
 
罪だとは思わない・・・
 
 
 
 

 
 
 
  その日 
 
  雨は一晩中止まずに 
 
  静寂の部屋の音を 
 
  掻き消した… 
 
 










ちょっと待て!
なんで最初は普通の話だった筈なのにこんなんになってんだ!?(汗
えー…風呂とその後は自己規制で… 御免なさい(逃走
03 01 13