裏 旅行編。最終夜
いつもは優しく接していた響も今夜は違った。
歯を立て爪を立て、影貴に仕返しをする様に…何かのタガが外れた様に影貴の躰に傷を付けた。
影貴の白く細い躰は見る見る内に真っ赤になっていく。
月が苦痛に顔を歪める影貴の透き通る肌を照らす。
その顔を眺めながら、響は傷の上を舐めていった。
すっかり息の荒くなった影貴に響は自らの口で印をつけながら、指で躰の線をなぞった。
痛さとくすぐったさのあまり影貴は声を上げる。
響の指はいとも簡単に影貴を生まれたままの姿にしていった。
「これも…尋乃ちゃん仕様なのかな…?」
いつぞやに響が買った水着と同じ柄…尋乃はあの時以来影貴にはコレ!と強く念を押していた。
濡れた影貴の躰を大きな手で撫でながら響は優越感に浸っていた。
くすくすと妖しく笑みを浮かべながら指を滑らせる。
「…こんなに…求める影貴ちゃんは初めてだよ…」
恥ずかしさに顔を赤らめる影貴にさらなる快感を覚え、響は笑った。
「さっきのコトバ…もう一度聞キタイナ…」
一呼吸置いて力を振り絞る様に影貴は言った。
「愛してる…」
「もう一回…」
響はその言葉を堪能する様に耳元で何度も反復を促す。
そして影貴が五度目に同じ言葉を繰り返した時、響は呟いた。
「…モット…聞キタイ」
それと同時に影貴に激しい痛みが走った。
影貴は叫ぶ様に言葉を繰り返す。
「愛してる…っ
愛してるよ…っ
キョウ…っっ!」
ぜぇぜぇと苦しそうに息をする影貴に響は囁いた。
「ボクモ影貴ヲ愛シテルヨ…」
乱れた髪を直そうと影貴が顔の角度を変えたとき、外の異変に気付いた。
「今…何時なの…?」
外は白み始めていた。
カーテンの隙間から淡い光が覗いている。
影貴が慌てて起きようとするとその手を響が止めた。
「寝たければ昼から寝れば良いよ…」
「そ、そういう問題じゃなくてっ」
影貴は真っ赤になった。
「もうちょっと…抱かせてよ…」
響は影貴を引き寄せ、首筋に口づけた。
「………ぅん…」
影貴は目をつぶり、同じ様に…響の首筋に口づけた。
翌朝…といっても時刻は昼に近いのだが…響は前夜に乱してしまった影貴を風呂にいれ、髪を綺麗に整えた髪を切って、ホットアイロンで外跳ねの髪をストレートにのばしてもらい、一段落するともう日が落ちようとしていた。
「そろそろ擾が着く頃かもね」
そう言って響は散らかった髪をまとめゴミ袋を勝手口から外に出した。
「じゃあ、私そろそろ帰る用意するね」
影貴が荷物をまとめ始めると、響は影貴の隣にやって来てやおら影貴の服をめくった。
「なっ何すんのよっっ!」
焦る影貴を尻目に響は顔をしかめた。
「あー…やっぱり…少し跡残っちゃったね…ごめん…」
影貴は首を振って笑ってみせた。
「ううん…大丈夫だよ…痛くないから…」
響は腕にあった小さなアザを押した。影貴は「痛っ」と声を上げる。
「ほら…僕の前で無理しちゃ駄目だよ」
…貴方の前で無理しなかったら生きられませんよ…?
影貴は苦笑いを浮かべた。
二人で軽く夕食を食べたあと、響が影貴を送って行くと言ったので、二人で部屋に上がった。影貴が荷物を持とうとすると、その荷物を響が持ち上げた。
「影貴ちゃん、最後に一仕事…昨日みたいにキスしてくれない?」
影貴が吹き出した。手首を捕んでせがまれ困っていると、玄関の戸が開く音がした。
「ほらっ先輩帰ってきちゃったよっ!は、早く行かなきゃ…っ」
「…擾だってもうオトナなんだ…邪魔しになんか来ないよ…」
「でもっ…」
案の定大人の意味を取り違え、影貴は逃げようとしたが、どうせ逃げられるはずもないので軽く背伸びをした。
しばらく影貴が離して貰えなかったのは言うまでもない…
深夜
響が台所に降りると、縁側に擾が座って日本酒片手に月を見ているのが見えた。
「いいもの飲んでるじゃん」
横に座ると擾は何も言わずに空いていた御猪口に日本酒を注いでくれた。
「旅行楽しかった?」
「……ぁぁ」
酒を飲みながら楽しそうに聞くと擾は小さな声で答えた。
「役に立ったでしょ?御餞別っ」
「……ぁぁ…」
顔を反らし擾はうつむいた。響は擾の肩に肘を置き囁いた。
「…今度は尋乃ちゃんが寝込まないような方法教えてあげるよ…」
ぎょっとして振り向いた擾の顔を見て意地悪そうに笑いながら、二人は杯を交わした。
互いの四日間を祝って……