「琉様」

玉座に座る琉に灯明はひざまづく。

「先程蒼一から興味深い話を聞きました…」

琉は灯明の話に耳を傾け小さく笑った。

 

+++ aqua 第二部 8 +++





「貴方達は…」
「初めまして、影貴様」
城下に臨む広い部屋、窓辺に座っていた影貴の前に現れたのは二人の男の人魚だった。
「稚弘と申します」
「秀と申します。この度は御帰還の喜びを…」
ふいと顔を反らした影貴をみて、秀は言葉を止めた。
稚弘は首を傾げる。
「…姫…?」
「私は姫じゃありません」
影貴は俯いた。
「私は森に住む田舎娘で構わない…!」
「そんなことありませんっ」
稚弘は影貴の元へ駆け寄り肩に触れた。
「……!」
その途端に体に流れ込む力に稚弘は驚きを隠せず目を見張る。
「貴女が…姫でないはずがない…」
「証拠もないじゃない」
窓の奥に反らした瞳が前を向くことはない。
「稚弘が貴女の力に一瞬戸惑ったのが何よりの証拠です」
秀も脇に寄って来た。
「貴女には無限の魔力がある。
 この国に来て解放されてから貴女の情緒が不安定なばかりにその力が垂れ流され、
 触れたものの魔力を増幅させている。早く制御をしてください。」
「………」
「秀、そんなこといきなり言ったら可哀相だよ」
そんな事を言われても影貴にはさっぱり解らない。
魔力の留め方も知らないし、第一魔力がなんだか知らない。
月花達はそんな力を持っていただろうか。


「こらこら、可愛い娘を虐めないでおくれ」
ふわりと髪を靡かせ琉が入ってくる。
「少し話があるのでね。終わったらまた呼んであげるよ」
秀と稚弘はさっさと部屋を出ていった。
「あの…私は…」
影貴は自分の体が震えるのを感じた。この人にはなにか恐怖を感じる。
「ちゃんと抜けた分の記憶を返してあげるからね」
有無を言わさず気付くと影貴は琉の腕の中にいた。
どこか懐かしい香りも感じる。なにもかもが複雑に入り交じっていた。

「………っ!」
頭に無理矢理入り込んでくる妙な感覚に影貴は頭を抱える。

頭の中に蘇る遠い昔の記憶。
玉座にいる若い琉の姿、その腕で眠るのは…

「君だよ」

慌てて玉座に逃げ込んで来た影に影貴ははっと息を飲んだ。

「お父さん、お母さん…!」

『琉様!街はもうダメです。場内にも隣国の兵が…!
 このままでは危険です。影貴様だけでも我々が安全な地へ…』
頷き、手渡された小さな自分。父と母は影貴を抱いて出ていく。
扉を締めると、二人の表情が変わった。
「…早く、このこを鷲王子に…!」
「これで我々の生活は守られたわ…!」

「鷲王子とは今の王のことだよ」
琉が呟く。
「彼等に騙された。彼等は君を奪い隣国に命乞いしたんだよ」
「そんな…」
「君の記憶だよ」
無理矢理記憶の続きがねじこまれる。
耳に珊瑚のピアスをはめられ、森の奥で過ごす生活…
そこからの記憶は影貴の『日常』…
「うそよ…」
「嘘ではないよ、君自信の記憶なんだから…」
「貴方がそれらしく見せてるんでしょう!」
影貴は泣きじゃくり琉から離れようとする。
琉は目をつぶり影貴を深く抱き留めた。
「…本当は…見せたくないんだよ…」
部屋の端にある水晶玉に影貴を連れて寄ると琉は影貴の手をそこに当てた。
水晶にはベッドに横たわる王と、擾や恒達が見える。
『…つまり、あの少女、影貴は敵国の王である琉の一人娘であの国の魔力の核なんだ。
 お前達が生まれた頃あった戦争で私はあの国からの捕虜に彼女を盗ませ
 こちらに引き寄せることで勝利を治めた。しかしもはや…』
『ってことはあいつの親は偽物だったってことか』

「真実だよ…」
影貴は呆然と立ち尽くす。
「…そんな…私、魔力なんて…」
「…向こうの国で魔力を持つのは王だけだからね、
 ピアスの力もあって抑制されていたんだろうね…」
琉は優しく頭を撫でた。
「体に傷を負ってはいけないよ。力が弱まって死んでしまうからね。
 …ところで、君は親友に会いたいかい?」
影貴は不思議そうに頭を上げた。
「この国に招待しようと思うんだ。君の力があれば、今すぐに…」



「あ、月花さぁーん、こんにちはぁ!」
「そーちゃん…」
岩の上に器用に乗ると、月花は顔をこちらに向けた。
蔭は奇妙にこちらを見ている。
「海に帰る方法ありましたよ!」
「本当!?」
月花の顔が煌めく。
「ええ、ただし、ギブアンドテイクですけどね」
「構わないわ!」
お父様に会えるのならば…!
「じゃ、戻してあげます。ただし…
 うちの国に戻ってくるって約束は守ってくださいよ。戻らなければ…」
そーは顔をしかめた。
「やめときましょ。暗い話はつまんないです。じゃ、ついて来て下さい」
月花は蔭と顔を合わせた。
「行っておいで。ここで、待っているから…」
「有難う…」

月花は白いドレスを濡らし、海の奥へ消えていった。



「苦しくないでしょう?」
二本足のままなのに不思議なことに息ができる。
そーに導かれ見知らぬ城に入った月花は玉座に通され、体が凍り付いた。
「貴方は…!」
「お久しぶり、お嬢さん。大丈夫だよ、こちらへおいで」
ゆっくりと歩を進め、近くに寄ると琉は少女を月花の前に連れ出した。
「彼女が君の願いを叶えてくれるよ」
「影貴…?」
影貴は月花の手を握った。
「また会えたね、月花…」
「ちょっ、どういうこと?!」

まばゆい光に包まれ、月花はそのまま意識を失った。



「うっ……!」
「どうした親父!」
胸をおさえ苦しそうにうずくまった王に周りがどよめく。
「影貴が…力を使った…しかも…この私に、っっ」
「どういうことだよ!」
「来る…凄まじい魔力の…根源が…!」



「…ここは…」
月花が目覚めたとき、辺りにはそーしかいなかった。
遠くに祖国が見える。
「どうですか?久々の人魚姿は」
足元に感じる懐かしい感触。
鱗をなで、月花はふと顔を上げた。
「ねぇ、さっきの…」
「なるべく早く、戻って来て下さいね…」
そーは複雑な笑みを浮かべその場を去った。





 


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久々なアクア執筆。絶対腕落ちたよ…凹むな。話つまらないし。
さぁやっと本題に入れそうだ。次回は月花帰還ですな。
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