ピンクのリボンと赤い花

 

「ちぃろっ!みてみてっ」

30センチ程の小さな体を命一杯走らせて、小さなイーブイ・・・御影は自分と同じ姿の稚陽呂の元へ走りよった。

「あやとがつけてくれた!」

首にピンク色のリボンを結んで嬉しそうにしっぽを振る。

「良かったな、似合ってるよ」

振り向いた稚陽呂がにこっと笑って言った。

 

稚陽呂と御影は双子のイーブイ。

姿はそっくりで普通の人は見分けられない。

ただ一人、見分けられる人間は二人を育てている速人だけだった。

「ねぇ〜どこ行くのぉ?」

首のリボンににこにこしながら御影は前を歩く稚陽呂に尋ねた。

「ちょっと出掛けてくる。ここで待ってて」

そういうと稚陽呂はベランダの扉の前まで走り出した。

「まってよぉ〜っ」

御影は後を追おうとよちよち走るとリボンの端に足を引っ掻けすてんと転んだ。

稚陽呂は気付かず戸の隙間に足を掛ける。

「まってよぉ・・・りおん・・・とれちゃったぁ・・・ちぃちゃぁんっ・・・」

御影ははずそうともがくが、その度にリボンが絡まる・・・

しまいには小さな体中にリボンを絡ませてぐすぐす泣き始めた。

その声にはっと気付いて稚陽呂が駆け戻り、御影の小さな涙の粒を舐めた。

「待ってろって言っただろぉ・・・泣くなよ・・・」

「イトリいやだぁ・・・」

ハ行が未だに言えない御影は、ぽろぽろと涙を流しながら一人は嫌だと駄々をこねる。

稚陽呂が困って、絡まったリボンをはずし始めると、大きな手が御影を抱き上げた。

「どうした?リボンが取れちゃった?」

速人だった。

速人はその場にトンッとあぐらをかいて座ると、御影を膝に乗せリボンを外した。

「御影にはちょっと大き過ぎたんだな」

速人はフローリングにリボンを伸ばし、ハサミで幅と長さを半分に切った。

「これなら大丈夫だろ?」

細く短くなったリボンを御影の首もとの毛皮に結び付け、速人は御影を抱き上げた。

「お気に召したかな?お姫様」

『きゅぅっ』

命一杯しっぽを振って御影は「うんっ」と答えた・・・が速人には泣き声にしか聞こえないようだった。

「あんまり稚陽呂について行ったら駄目だよ・・・」

 

・・・君はブラッキーにならなきゃいけないんだから・・・

 

首を傾げ不思議そうな顔をする御影に速人は鼻をあわせると、御影を膝におろして頭を撫でた。

御影はゆっくりと目を閉じる・・・

「稚陽呂、何か用があったんだろう?行っといで」

小さな声で横にいた稚陽呂に言うと稚陽呂は軽く頷きベランダの方に走って行った。

御影はあっという間に体を丸めすやすやと寝息をたてていた。

 

稚陽呂は数分後に口に大きなハイビスカスの花をくわえて帰ってきた。

速人が御影の頬をつつくと、御影は顔を小さな前足で撫でながら目をこすった。

「稚陽呂がプレゼントだってさ」

御影は速人の膝からひらりと飛び降りると稚陽呂の元に駆け寄った。

「そこ座れ」

御影はその場にちょこんと座り稚陽呂を見上げた。

「それなぁに?」

稚陽呂は真っ赤なハイビスカスの花を御影の耳元にさした。

御影は花を見ようと首を色んな方向に傾ける。

首を動かすうちに黄色い花粉がパラパラと御影の顔に落ちた。

目を一生懸命こすりながら顔を動かして、まだ花を見ようと諦めない・・・

しまいには鼻に花粉がくっつき、くしゅんくしゅんっとくしゃみを始めた・・・。

その姿に速人と稚陽呂はくすくす笑う。

「ほら、見えただろ?」

速人は手鏡で御影を映した。

御影は鏡の中の自分をくいるように見つめ、稚陽呂の方を向いた。

「ありがとっ」

稚陽呂に笑顔で御礼を言うと、稚陽呂も笑顔を返してくれた。

 

平和な一日だった

 

 

 

 

 

 

02/08/30


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ハ行が言えないと高橋兄弟の名前が言えないってのがなんともうける・・・   イーブイって子犬みたいな描写が多いから可愛く見せるの難しいです・・・