一時の夢2
初めて培養ケースから御影を連れ出したあの日から四ヶ月が経った。
あの時に何も問題が起きなかった事が評価され、
御影は香となら頻繁に外に出ることを許されるようになっていた。
そんなある週末、香はいつものように一週間の記録結果を付けていた。
御影はガラスケースの中からじっと作業する香を見つめている。
作業する白衣姿の香を見ていた時、御影はふっと何かを呟いた。
すると電子通信機が反応し、その言葉を画面に映す。
普段は気付かない位小さな声だったのだが、
部屋がたまたま静かだったため機械が音を拾ったのだ。
“おなかすいた…”
何気ない気持ちで画面を見ていた香は眉を寄せた。
「お腹空いたの?」
御影はお腹を触ってコクンと頷いた。
そんな筈はない
この培養液の中には一日分の栄養が含まれていて、
否応無しに一人分の栄養は取れることになってる。
機械の誤動作では無いことはたった今確認したばかりだ。
きっちり今日の十時に一人分が支給されている…
…一人分…?
香はきょとんとする御影を残してドアの外へ飛び出した。
しばらく走って別館に行くと、♀の人形モンスターを連れた女性研究員の数が急に多くなった。
入口付近にいた一人の女性研究員をつれ、香は御影のいる部屋に戻ってきた。
そしてすぐに御影を培養ケースから引きあげた。
「カオリ!食事するの?何かくれる?」
嬉しそうに話す御影を厳しい目で見つめ、香は静かに言った。
「いい?この女の人の言うことを良く聞いて。外にいるから…終わったら呼んで…」
そう言い残して香は部屋の扉を閉めた。
女性研究員は、安心するように…と御影に優しく微笑んだ。
「私はタカミ。大丈夫よ。ちょっと検査するだけだからね」
「御影どこも悪くない」
女性研究員、タカミはくすくすと笑った。
「悪くないってこれで解ったらご飯食べましょうね」
ご飯に反応したのか、御影はうなずく。
「うん。カオリ外で待ってるもんね」
ドアの外にいるであろう、香を想い、御影は微笑んだ。
…なんという事をしてしまったのだろう…
やはり結果は香の予想した通りだった…
妊娠
女性研究員には『実験の一環』だと告げた。そのうちそちらに行くだろう、と…
ウソニキマッテル
あの時だ。ただ一度、自分の部屋に来た四ヶ月前のあの日…
どうしたらいい?
実験どころか、御影は完全な人間でも無いのに…
よりによって人間で研究員の自分との子供だなんて…
「私…何かおかしい?病気?」
御影は眉間にシワを寄せた香を心配そうに見つめた。
「…妊娠したんだって…」
静かに香は囁いた。
「ニンシン?」
御影は首を傾げた。
「子供が出来たって…」
「子供?だれの?どうして?どうやったの?」
不思議そうに香に問い掛ける御影の言葉は、もう彼に聞こえていなかった…
何も知らない、妊娠した理由も解らない目の前の少女を…自分の欲望だけで傷付けてしまった…
しかし報告をしない訳には行かなかった。
幸、香は影貴においては一任されていたので、特に深くは追究されなかった。
しかし御影は別館の産婦人科に移されてしまい、香は担当を外された…
御影が突然暴れて言うことを聞かなくなり、
子供を降ろしたと報告されたのはその二週間後である…
香が急いで御影の個室に駆け込むと、出された食事をはねつけ、
部屋中で暴れ、傷つき、出会った時と同じ暗い瞳の御影がベッドの脇にもたれていた。
「みか、げ…」
呆然と部屋を眺めて呟いた香の声に気付いた御影は、ベッドから這うように香に近づいて来た。
「帰ル…知ラナイ奴ノ子供ナンカイラナイ…ナンデ!?
ナンデカオリジャナイノ!?イツコンナコトシタノ?カオリ、私ガキライ…?」
頭に直接響く声、テレパシーだ。
口を開けて喋ることも、辛いのだろうか…。
その叫びは悲痛で、思わず香は顔を背けた。
彼女の相手が自分であることは香本人しか知らなかった。
自分の足元で傷つき、泣き崩れる御影…彼女には相手の名を、本当の事を告げておきたかった…
また、あの部屋に御影が帰って来た。
香は時間をかけて真実を御影に話した。
御影は後悔し泣き崩れたが、今は逆にそれが絆の一部となっているようだった。
大分精神の傷は癒えてきたようだった。
今はもう香にいつものように微笑みかけるようになっていた。
「よかったんですかー?あり得ない誤魔化しをオッケーしちゃって」
丸いグラスに赤ワインを注ぎ、鏡一は一人ごちる。
「しかも折角面白いDNAの子が見られると思ったのに流産しちゃうし…まったく…」
一頻りしゃべり終わる頃、傍らの、おそらく鏡一にとって話しかけていたであろう人が口を開いた 。
「色々と面白かったんだけどね…」
つがれた液体を飲み干し、蒐は笑う。
「まぁ、あの研究員ごときに御影は手に負えないよ」
蒐はまるでその場に御影でもいるかのように、空を優しく撫でた。
「大切な、僕の御影はね・・・」
2002.07.02.18:10
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↑色々あり得ない展開だったので修正がかけられませんでした(笑) タカミ(孝子)登場と最後だけ書き足しました。このころ蒐の存在無かったので。 眠くなくても文法おかしいよ昔の自分!