昨日と同じ時間


暗い部屋に


光が差し込む…







+ SABRINA2〜U1 4 +







「…?」
「お待ちしていましたよ、お兄さん」
雄一が会釈をすると秀は何も言わずにこちらに歩み寄った。
「…もう大きくなれたんだ。」
「いえ…、この大きさでないと対等に扱って頂けないかと思いましてね」
秀はベッドのへりに腰掛け、玲を見つめた。

「いつもこの時間に来るんですか…?」
秀は頷いた。
「毎日の、…日課だから。」

「昔から怖がりで、小さいときは一緒に寝てあげた。
血は繋がってないって解ってたけど、本当に大切にしてたんだ…。」

それは雄一を憎む口調ではなかった。

「サブリナを育てるのは、大変なことだから。玲には出来ないだろうと思って反対したけど、
本当は他の男に取られるのが悔しかっただけかもしれないね。
焦ってたのかもしれない。…玲はもう、自分のことなんか忘れてしまうんじゃないかって…
嫌われたら一緒だけど。」

雄一は首を横に振った。
「玲さんはお兄さんを嫌ってなんかいませんよ、僕はお兄さんの代わりにはなれない…」
「なって貰わないと困る。」
秀ははっきり言った。
「血は半分しか繋がっていなくても、戸籍上は兄妹だ。君しか玲が頼れるのはいない。」
秀は立ち上がった。
ドアを開けると一瞬玲の顔に光が当たり、玲は顔の向きを変えた。

「…おにぃ、ちゃ…」

秀はゆっくり振り返った。
玲は再び寝息を立てている。

「…玲さんも…お兄さんを一番に、思っていますよ…」

秀は何も言わず、部屋を後にした。




翌朝、傍らで大の字になって寝ている小さな雄一の蒲団を直し、玲は起き上がった。
「…お兄ちゃん帰ってきたかな…」
階下に降りたが、秀の姿は見えなかった。
「…お兄ちゃんは?」
母は残念そうな顔をする。
「たった今出ていっちゃったのよ。新しいお家見つかって、昨日は準備してたんだって」
冷たい感覚が玲に走った。
「じゃあ…お兄ちゃんでてっちゃったの…?」

私に
何も言わずに…?




「お兄ちゃんっ」
玄関を出て辺りを見ても秀の姿は見えなかった。















あれから、何年経っただろう。

「玲!?準備できたのー?」
「今いくー」
いつもは長い髪を綺麗に結い上げて、着物を着た玲は胸元の重ねに雄一を入れた。
「…成人式に…間に合わなかったね」
雄一は黙って頷く。
理由は解っていた。
その後も度重なったあの力。
雄一は彼女の淋しさを紛らわせる為に力を使っていた。

「仕方なかった…淋しさには変えられない…」
「ん?」
何も知らずに笑顔で尋ねた彼女に雄一は笑顔を見せた。
階下では母が防寒具を用意して待っていた。
首尾よく首に巻いてドアを開けた玲は目の前に立っていた影に唖然とした。


「お、お兄ちゃん…」
「ただいま。」

ファーの襟巻きから覗く小さな雄一を秀は冷めた目で睨んだ。
「まだ小さいの?役立たず。」
「すいません…」
へらっと笑って流すと秀は玲に向き直った。
「おくってあげるよ。車あるから。」
玄関には黒い車が一台見えた。



母に別れを告げ車の後部座席に座ると、玲は先に助手席に座っていた人影に顔をしかめた。
その人はゆっくりこちらを振り返り笑顔を見せた。
先端がくるくるとカールした長い髪が揺れた。
「遥香です…こんにちは」
「お兄ちゃん誰この人!」
無作法に指をさすと秀はしれっとかわして車を走らせる。
「いいじゃん誰でも。」
くすぐったい毛の中から雄一はその顔を見つめた。

「遥香さんは…もしや…?」

遥香は、バックミラーごしににこりと笑った。






その日、兄は一晩とまることになり、食卓はまた賑やかさを取り戻した。

「お兄ちゃんは?」
母が天上を指差した。
「酔って寝ちゃったわ。部屋、残しておいて良かったわね」
ふと、母は秀の義理の母であることを思い出した。
彼女にそんなそぶりはなく、すっかり忘れていたのだが。
実際、家族に血が繋がっていなかろうが玲にはどうでもよかった。
ただ、毎日皆でいられれば、それでよかったんだと…そう思った。



「あ、雄くんに水頼まれたんだ…」
酔った父と兄に酒を飲まされた雄一は一滴でダウンして先程から部屋でぽーっとしていたのだ。
実際彼にとってはかなりの量なのだろうが。

階段を駆け上がり扉を開けた玲は思わぬ姿と目があった。

「あ…玲さん…」
「どうしたの?大きくなって…」
ベッドの脇に膝を立てて座っていた大きな雄一は玲が一年前に準備しておいた服を着ていた。

「いや、その…
戻らないんですよ…ね…」

雄一は唖然とする玲に向かって苦笑いを見せた…。






それは
寒い冬の夜だった…

 

 

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031124
遅くなりました。しかも謎多いし。遥香は雄一と同類です。その話はそのうち…え、それが3なの?!(汗
本当は真夜中に雄一を突如でかくして襲わせようとして「長年隠れていた瞳が見えた」で終わらせた
かったんだけど雄一が秘密持ちの役でもないし目について深く触れてないしパニックとラストが被るか
ら辞めました。
そんなわけで終了。ありがとでしたぁー