その人の手は

冷え切った体には

暖か過ぎて

泣きたくなった






+ 魔法の言葉 後 +










「ついたよ」
表札にはちゃんと彼の苗字が書いてあった。
家に入ると彼は荷物を持ったまま脱衣所に向かい、私を床に降ろしてくれた。

「綺麗にしてやるな?」

彼は着ていたジャージを籠にほうり込み、Tシャツにジャージの裾をめくった姿で私を洗い桶にいれ
た。



「えーっと、毛だからシャンプーかな?あーでも俺のじゃ駄目か、母さんの使っちゃえ」
そう言って私の汚れた体を泡立たせた。
暖かいお湯に漬かって、人に綺麗にしてもらえて、
私は凄く幸せだった。



「俺もシャワー浴びるからそこで待ってて」
私が気持ち良くなって伸びをしていると、彼はそう言ってまた風呂場に戻っていった。



シャワーの音を聞きながら


彼の処でなら


ペットとしてでも


いいかもしれない、とか


考えてしまった…





部屋につれてってもらった。
大きな部屋がドアを中心に線対称に区切られているが、持ち主の違いとは此処まで部屋の様子を変える
ものなのか、部活の道具や置いてあるものにだいぶ違いがあった…
そして、片方には先客がいた。



「…なにそれ?」
「いぬ」
平然と答えた彼に眉間を寄せた。
「なんで?」
「雨の中で…可哀相だったから」
先客…というか片方の部屋の主は呆れた。
「まーたお前は変なモノを拾ってきて…」
彼はこちらに近づいて私の姿を見ると






笑顔で私の頭を撫でた。
「でもなんか可愛いな、雑種?子犬かなぁ?」
彼の腕の中にいた私を抱き上げて、その人は言った。

「お前名前は?オレ隼人…って言ってもしゃぁないか。稚弘、名前は?」

ベッドを片付けていたちーちゃんの方を向くと、ちーちゃんは乱暴に自分の体を羽毛の中に投げ、天井
を見た後起き上がった。




「…エーキにしよっか?」





先輩はちょっと動揺の色を見せてたけど呆れてた。

「お前この間フラレたんだろー?未練がましいなぁ」






そうだった…




私はこの前

一学期の終業式の日

告白してくれた彼を振った


…先生が…好きだったから…



そんな酷いことしたのに


私そんな人の所に

居座ろうとしてたんだ…





サイテーだ…私…



「いいの!先輩は俺の理想なんだから!」

ちーちゃんはそう言って隼人先輩から私を取り上げて、ベッドに足を伸ばした。


「こいつさぁ、びしょ濡れになって…葉っぱの下で雨凌いでてさ、俺が呼んだら凄い淋しそうな顔で
こっち見上げてて…なんかかわいそうでさ」



私に向かって笑いかけたその顔は


私が


「ごめんね」


と言った時の顔と


同じだった…




「いいんだ、俺は先輩に言うこと言えたんだしっ!」


自分に言い聞かせるように無理に笑って



私の心を傷付ける



あー私サイテーだ




サイテー




こんなに優しい人の心を





傷付けたなんて…





「なんだよー、お前までそんな顔すんなよなぁー」

私の頭を撫でて


彼はまた



淋しそうな笑みを見せる






「…お前が本当に先輩だったらいいのになぁ、えいき?」


私に鼻先をくっつけて

彼は

優しく笑いかけてくれた






…ごめんなさい






…ごめんなさい








せめて一度



元の姿に戻って





この言葉を







届けたい









体の中を

なにかが

とおりぬけていく感じがした






「…ごめんなさい…ごめ…なさぃ…」


「…っっ!!?」

「ちぃちゃ…ごめんなさ…わ、わたし…」





耳に入ってくる自分の声で
私は目を開けた。


目の前に

鳩が豆鉄砲でも喰らったような顔した二人がいた。






悲しくて


もう一生


このまま


誰にも気付かれずに


消えていくと思った



でも


このまま私が死んでしまったら


私は


彼の事


何も知らないままだったんだ…





「有難う…ちいちゃん…」






急に眠くなって
私はちぃちゃんによっかかったまま
眠りに落ちてしまった






遠くの方で


私を必死に呼ぶ声がしたけど





余りにも居心地が良くて


それどころじゃなかった…











優しさ




それは






魔法の言葉…






 

 

 

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話も非現実ならカプも非公式じゃ!稚弘この後どうしたんだろう…。
ベッドの上にて抱き締めてた犬の名前呼んで好きな人に変わったら…た(強制終了)
これは続きを書くべきなんだろうかねぇ?まぁいいや。(完結。2003.8.6