Mission5:会えないのかと思ったら夢で会えたよ。
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瞳を閉じて

君だけを想う

ただ

それだけで…



泡沫夢幻 -Utakata Mugen-




青葉の淡く柔らかい香りがする。
大きく腕を広げた木の下は葉影が編み目状に連なり、風が奏でる葉音も五感に心地良い。
この場所に知らぬ間に佇み、眠りに導かれたのは何刻だったであろうか。
その問いに答えるのは優しい春風だけであった。
彼女に触れられて纏った衣が絹のように波打つ。
背中で簡単に結った髪からのほつれ毛が顔を撫でた。



その場だけ
時が止まったように
動かなくなる
まるで
絵画の額に
切り取られてしまったかのように…



「もう…そんなとこで寝てたら風邪ひくわよ」
ひんやりとした手で頬を優しく叩かれ、目を開ける。
亜麻色の巻き毛の少女が困った顔で見下ろしていた。

どこか懐かしいその面影…
そう、
彼女は、
ただ一人の
私の愛しい人…

「…おはよう」
「はいはい」
少女は手を腰に当て頬を膨らませた。
「まったくなんで貴方はこんなに肌つるつるなのよ。本当に男なの?」
いきなりそう言われ、彼は白い肌に笑みを浮かべた。
「知ってるくせに…隣においで」
少女は「もう…!」と呟きながらも彼の隣に座った。

「春はいい季節だね」
「そうね…」
彼女は綿毛のように柔らかな笑みを浮かべた。
「私春が一番好きよ。肌に感じるなにもかもが優しくて、暖かいから…」
少女は風を掬うように両手を掲げた。
「夏の暑さも情熱的で素敵だし、秋の情緒も郷愁を誘う、冬の静けさも魅力的ではあるけれど…」
並んで座る二人の髪が風にするすると絡まって、ほどける。
頭上の葉がさざめき、影が踊る。
足元に広がる芝生も青々と伸びている。
雲一つない空に一筋の飛行機雲が通っていった。


「いい天気だね」
「うん…」

自然と重なった手は小さく、先程とは違って温かい。
小柄な体をこちらに預けて、少女はゆっくりと呼吸をする。

「幸せだなぁ…」

ぽつり呟かれた一言に思わず笑ってしまった。
「平和な幸せだね…」
「平和が一番よ?」
少女は瞳を閉じたままふふっと笑う。
「そうだね…平和に勝るものはないね」

それがたとえ、
不幸の前の静けさだったとしても…

二人の間に静寂が舞い降りる。
その静寂でさえ、二人には幸せな時間に感じる。
互いの心の音がトクン、トクンと波打って響く。
二人はゆっくり目を閉じて春の空気の中に身を投じた。


どれくらい時が過ぎたのか、太陽は少しだけ位置を変えていた。
少女はゆっくりと肩から顔を上げこちらに微笑みかける。
「へへ…寝ちゃった…」
微笑み返すと少女は思い付いたように言った。
「ティータイムしましょ?何か持ってくるから」
少女はゆっくりと立ち上がり、繋いだ手を解いた。
「待ってて」
少女は温かい手で肩に触れ、左の頬に軽く口づけた。
こちらを見つめ、哀しげに微笑んで。
ふと心に影が走り、繋いでいた手を再びのばす。
「まって…!」
立ち上がって捕らえようとした瞬間、二人の間に突風が走り抜けた。
少女の長い髪とスカートが揺れ、勢いに思わず目をつむる。


目を開けたとき

少女の姿は目の前から消えていた…


温かかったはずの春風が冷たく頬を打った。
見渡しても
少女はいない。
呆然と立ち尽くす体を虚しく風が撫で、結んでいた髪をほどいた。
何かが崩れていくように、長い髪が不規則に揺れる。






「何故…君は…」




震えた唇から言葉を紡ぎ出し、彼は問うた。



何故君は

いつも

私をおいて…






瞼が離れ、彼を現世へ引き戻す。
瞳が映すのは傾きかけた太陽が照らす燃えるように赤い自宅の庭だった。
「…夢…?」
寄り掛かっていた大樹を見上げる。
頬に残る柔らかな感触に手をのばす。
そこには、瞳から零れた一筋の雫が残っていた…。





木に手をついてゆっくり立ち上がると、背後からこちらに歩み寄る足音が聞こえた。

「…涼子さん…?」
傍らにいた愛しい人の名を呼び振り返る。
「ちがうよーっ!」
現れたのは黒髪の小さな息子。
どこで遊んだのか、半ズボンから覗く膝を汚して。
「きょうはようふくなんだね」
「そうだよ。沢山遊んだかい?」
小さな息子は嬉しそうに首を縦に振る。
「おなかすいたー!」
「はいはい」
泥だらけの息子を抱き上げて庭を横切り母屋に向かう。
「りょーこさんってだーれ?」
不思議そうに尋ねた息子の頭を撫でて、問いをごまかす。
ふと足を止め、ゆっくりと後ろを振り返った。


大きく腕を広げた木を春風が撫で、音を立てる。


「…かならず…見つけてみせるよ…」





温かな昼下がりの泡沫

それは、春風が魅せた

儚い幻…









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題:会えないのかと思ったら夢で会えたよ。でした。
夢なのか幻なのか解りませんが。
言葉のニュアンスが幸せそうなのでイメージと違うかも知れませんがこんな感じでお許しください…
かなりファンタジー?色が高くて我ながら書き終わって色々直しました。
少女は本当に妻なのか、春風の見せた幻なのか、唯の夢なのか、
彼女は妻にそっくりな姿に化けた春風の化身とか…謎多めで締め括ってます。
好きなように解釈してください。
昔の話です。
走ってきた子供は幼少擾です。
年は皆様の妄想にお任せしますが、多分幼稚園…行くか行かないかくらいでは。
とと様かこうとすると何故かみんなシリアスです。
まぁ背景考えたりキャラ壊さないようにとか考えたら仕方ないが。
次回キャラの予定はないですが何かあれば書きます。
一応一組リク頂いてるんですがまだどんな感じにするか浮かばないので。
祥辺り書きたいんだけどね…彼動かしやすいから。ではまた次回!
050527