Mission6:美味しいのでお願いします。
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名前、一木秀

所属、一年C組

役職、庶務

好きな食べ物、ビターチョコレートポッキー


bitter sweet

 


雨がしとしと降り続いている。
湿気と雨で濡れた廊下にモップをかけながら怠そうに庶務がぼやいた。
「おーい!なんでオレが掃除なんだよ。マジつまんねー」
「いても仕事の邪魔だから。」
珍しく一番最後に生徒会室に現れた一年生が後ろで的確な答えを弾き出した。
「まぁ庶務には雑務も含まれるからね。名前は偉そうでも要は雑用係。パシリ。」
「お前も庶務だろーが」
「僕は戦力だから。君は髪が不良だから。背が無駄に高いから。」
「いや、最後二つ理由じゃねーから!」
見上げていて首が疲れたのか、首を左右に曲げて元に戻すと、秀は扉を開けた。
「こらまて!」
「あ、わんちゃんきた!」
部屋の済にある簡易給湯室で手を洗っていた尋乃が振り向く。
脇にある残骸からまたこの女は何か食っていたらしい。
今年の庶務も誰ひとりまともではない。という目をして彼は向き直る。
「珍しく遅かったな」
会長に言葉をかけられコクリと頷くと、彼はおもむろにもっていた袋を机にひっくり返した。
「購買に行ってました。」
「何それ…ポッキー…?」
袋から零れたいくつもの箱に月花が目を見張る。
頷いて箱を開けた秀は中の小袋を一つ、月花に渡した。
「差し上げます。」
「まぁ、有難う」
大切に両手で受け取ると秀はまた向き直り残りを自分の机においた。
「私にはくれないのー!?」
手を出していた尋乃はぷうっと膨れる。
「太るよ。」
「ダ、ダイエットは明日からだもんっ!」
秀は無言で尋乃に向かって一袋投げ付けると、別室のドアが開いた。
「尋乃なに騒いでんの?」
「っるっせぇんだよお前は!厚かましく食い意地張ってんじゃねぇ!」
影貴は持っていた書類を会長に提出し秀に近づいた。
「わんちゃんビターが好きなんだ?」
頷いた秀を見て早速袋を開けた尋乃と便乗した孝子が顔を上げた。
「ビター!?甘くないの?!苺がいいー!」
「苺まずい。吐く。」
影貴は苦笑いを浮かべる。
秀は気にせず蔭にも一袋渡した。
「お疲れ様です。」
蔭は一瞬渡された袋を見つめたがすぐに笑顔で受け取った。
「なんだ、俺にもくれるのか?有難く受け取るよ」
微妙に期待して成り行きを見ていた擾の前を通り過ぎて、秀は食べ始めた。
「おいコラ俺の分は!」
「…やっぱりこの女と同類じゃん。」
尋乃をちらりと見て秀は鼻で笑った。
「一緒にすんな!っつうかなんで俺だけ尊敬語ねぇんだよ!」
擾は食ってかかったが尋乃は既に与えられた餌に夢中で聞いていない。
「先輩は尊敬に値しないってさ」
影貴がケタケタと笑い、擾の鉄拳をひらりと避けた。
賑やかになった生徒会室にお祭り男が入ってこないはずがなく、あたりはさらに煩くなる。
「恒も一本食べない?」
会計書類の下に五線譜を広げMDを聞きながら『仕事』に没頭している恒は、中断して顔を上げた。
「姉上が噛ったやつ半分頂戴☆」

部屋が凍り付く。

当の恒は気にせず袋から一本取り出すと、それをくわえて静寂を取り戻した部屋に鉛筆の音を響かせた。
さもやっと続きがかける、といった表情だが真実はどうだか解ったもんじゃない。
「…う、煩いと聞き取れないもんね!」
適当に孝子はごまかして口をもごもごと動かした。
「兄弟で半分ことか、よくやるよねっ!?」
影貴には兄弟がいないため解らない。
「少なくともオレは記憶にない」
擾が吐き捨てた。
「大体争奪戦だな。野郎ばっかり揃うと」
祥は尋乃が持っていた袋に手を突っ込んだが中は空だった。
最後の一本を孝子に取られたのか、まだ一口だけ噛ってくわえたままのポッキーの反対側に、祥はかじりついた。

「…………!!!!」
「あんた何やってんのよ…!」
影貴に叩かれても祥は平然としている。
「だってもっと食いた…」
「買ってきなさい購買で!」
「…あほくさ。」
秀は一言呟いて白いビニール袋の口を縛った。
「もう一つくれ」
「もうない」
厚かましくも要求した祥にしれっと秀は言った。
残るは袋を開けずに仕事を続けている会長のだけだ。
蔭は顔を上げて袋をこちらに向けた。
「皆で分けて食え」
「やりぃ!会長イカすっ」
たまたま脇にいて受け取った影貴は、袋を開けて九人分振り分けた。
「俺の分はいらないぞ」
蔭にそういわれ、四本が残った。
「どうする…?」
尋乃はすっと袋を取ると、図るようににんまりと笑った。

「…ポッキーゲームしよっかぁー?」

「謹んで辞退させていただきます」
影貴が手で制した。
「女の子減ったら気持ち悪いじゃん!」
「私とやる方がもっと気持ち悪いって皆思ってるわ!」
影貴と尋乃が意味のない口論をする横で袋から中身を出して祥は言った。
「なんか下んないから食っちゃっていいよな?」
「いいんじゃない。」
秀と二人でむしゃむしゃと食べた後、残りの一本を擾に渡して祥はニヤリと笑った。
「尋乃がやりたいみたいだから構ってやって」

一本だけ、残ったポッキーを受け取り、しげしげと見下ろした擾は、
その、整った切れ長の赤い瞳をうっすらと細め、口元に“あの”笑みを浮かべた…

「…ヒロノ…?」

名を呼ばれた少女はその声音に動きを止めた。

その後言い争いしていたトラブルメーカーがどうなったのか、誰も知らない…。














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いやぁーんっこわぁぁぁいっ!(あんたが恐いよ)
前回とは路線を変えてギャグ一色にしてみました。大いに笑ってください。
いやぁー、未遂で終わってよかったね!(一名はどうだかなぁ…)
ゲームをさせるか、させないか、迷いました。…理性が勝ちました!(笑)
にしても前書きの一木は…?意味無し?いやぁ〜ん(by忍びアン子)
結局、お題は、美味しいのでお願いします。にしました。
フッツーに小説書いただけでなんのお題も付けてないという失態を犯しまして、
何かにあうはずだと探った結果こうなりました。
メール送信したときタイトルも第五回って書いちゃったしなぁ。疲れてんのかな。

…次回はどうなるかなぁ…そろそろあの男に光でも当てたいんですが
…非公式になりそうな予感。
050602