Mission7:断然ミニスカート派なんだけど。
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日課で町内ランニング

風呂に入って

歯を磨いて

頭にタオルを被せたまま

恭一はパソコンの電源を入れた




足球的天才喜歓…






普段なら早く寝るが、今日は夜更かしを覚悟して夕方寝ていたため目は冴えている。
彼は画面の時計をちらりと確認し、とあるサイトにログインした。
機能の一つとして入っていた簡易メールに届いた一通のメッセージを読み、
指定された場所へ行き、部屋に入室しようとする。

“パスワードを入力してください”

「…あんにゃろ…」
メッセージには一言も書いてなかったじゃねーか。とぼやきながら恭一は浮かんだ単語を入れた。
「soccer…あれ?」
共通点かと思ったが違うらしい。
「sayashi…入んねぇし」
パスワードは七文字までだ。
その後も色々試したが中々入れない。
いい加減メールで聞いてやろうかと携帯を触った瞬間、彼の脳裏に稲妻が走った。
勢いよくキーボードを叩いてエンターを押す。

「……開いた…」




入室するともうメンツは揃っていた。
『おせーよ恭一!』
『遅刻だぞー』
遅刻もなにも…こんなふざけたパスワードをかけた奴が悪い。
「もっとマシなパスかけろ」
『いいじゃん!文字数ピッタリで』
『恭一それで戸惑ってたんだろ!』
『簡単だよなー?』
示し合わせたように笑う仲間の顔が見える。
「もういい。始めろ」
恭一の一言で、効果音と共に牌が配られる。
かくして四人のネット麻雀(貫徹予定)が始まった。



後二局で三回戦目が終わる。とりあえず一位で終了できそうだ。
恭一は無難な牌をキープしていらない牌を捨て始めた。
…燈呂が変な牌を拾い集めている…気がする。
不穏だと思いつつも恭一は中を捨てた…。

ロンッ!

「ゲッ…」
しまった振り込んだ…
しかも…

『大三元キターーーーーッ!!!!』

「まじかよ…」
案の定順位交代で試合が終わりがっくり肩を落とす。
『ヒロずりぃよ』
『いやでも恭一引きずり降ろすのは快感だ』
『罰ゲームでもしてもらおうか』
「てめーら好き勝手いいやがって…」
たまに勝つと調子に乗るヒロはいつものことだが、最後の怜央の一言が気にかかる。
『そーだよなー。パスとけなかったしな』
「うるせーよ」
『あれは常識だよな!』
『元気かな音尾さん』
本日の麻雀大会主催者里中燈呂の設定した入室パスワードはneoeiki。
彼女の名だった。
確かに七文字だが…そこまで行くと危ないと思うのは恭一だけだろうか…
「今日会っただろ」
『はぁ…』
その意味ありげな溜息台詞はなんだ。溜息つきたいのはこっちだ。
『あ、でも俺この前私服の音尾さん見たよ!ロングスカートはいて可愛かった』
『うわまじずる!』
『私服なんて見たことねーし』
簡易チャットはもはや雀牌より活発に機能している。
『昔試合見に来てたときはカジュアルが多かったよな?最近服の感じ変わった?』
『あーそういえば昔はかっこいい系の服だったな』
…なんでそこまで見てるんだお前らは…
しかし、そういえばそんな気がする。最近いやに大人っぽい服が多い。
本人の趣味が変わった…とは思い難いが。


ふとそんなことを考えて画面に視線を落とすと、話し掛けられていたことに気付いた。
『恭一ー?』
「あ、わりぃ、なんだっけ?」
スライドさせればログが見られるが面倒臭い。
『ロングとミニ!どっち?』
主語がない。
どちらでもいいと思いロングと言ってみた。
『はぁ!?』
『なんでだよー!』
『恭一の趣味ってわかんねー』
お前らに言われたくねーよ…
「てゆーか何が?」
『音尾さんのスカートの長さ』
…ほんっとどーでもいいな…
三人はとまらない。
『オレ断然ミニなんだけど』
『ミニだろ!』
『制服の長さマジイイよな』
…この変態めが…!
『ロングでもチャイナドレスみたいなスリットなら歓迎』
『うっわ怜央やらしー!』
…断然ミニ派が言うな。
思わず画面に向かって呟く。
『あ、恭一スリットが好みなんだ』
『チラリズム主義?』
「勝手に人の好みを決めるな。どーでもいーだろ長さなんか」
『重要だよ』
『重要だ!』
『重要に決まってんだろ!』
同時に三人から反論が来た。
『音尾さん脚細いし』
『そこらのアイドルより知的で可愛いから』
『芸能人ってバカっぽいよなー!』
『天然とか気取ってマジウザ』
『そーそー』
話がやっと影貴から離れ始めた。


自分のそばには気付いたときからいた存在だった彼女を彼等のように見ることは自分には出来ない。
今日もうちに上がり込んでいたが、服なんか覚えてない。
ミニスカートがいいとか脚が他の子より細いとか、気にしたこともない。
というか見るなよそんなとこ、と突っ込みたい。
周りはそんな好奇な目で彼女を見ているのだろうか…
そう考えると、なんだか無性に腹が立った。


「ツモ」
『うっわお前何一人で真面目にやってんだよ!』
「え?」
『俺達さっきからツモ切りオートだよ』
…なんのためのゲームだよ…
恭一は一人ごちた。



結局、早々に麻雀大会を切り上げて、恭一は電源を切った。
真面目にやらないなら勝てるはずもないのに一人勝ちで狡いと言われても困る。
彼等の言い掛かりには慣れっこだが。
おもむろに部屋の窓を開けて夜風に当たりながら目をつむるとどこかの家の窓の開閉音が聞こえた。

「…きょーくん…?起きてるの?」
耳慣れた声に目を開けてもう一つの窓を見ると、隣人の黒い髪が見えた。
「わりぃ、起こした?」
「ううん、これから寝るとこ。窓閉めようと思ったら開く音がしたから」
いつもの笑みだ。
別に変わった所なんて…

「きょーくんシャンプーの匂いするねぇ」

ないはずだ。
何も、変わってないはずだ…

ふと気に止めなかった服を改めて見つめた。
水色の普通のパジャマだ。
「お前今日何着てた?」
「今日?」
一瞬考えて彼女は言った。
「きょーくんち行ったときはTシャツにジャージだった」
けろっと笑った彼女の笑みに思わず苦笑して、彼は頷いた。
「だよな…」


何も
ないよな…?

















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気付いてキョーくん彼女が教師の毒牙にかかっていることを…!(笑)
ギャグかシリアスかどっちかにしてよって言われそうですが、お得パックってことで。
お題は、断然ミニスカート派なんだけど。でした。
タイトルは中国語。
“サッカーの天才は…がお好き。”って書いてあります。何が好きなのかなぁ?
050603