Mission8:プライベートなんてあってないようなもんだし。
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その日は体調が優れない気がした。

まぁこれくらいなら…と自分を過信して

私は寄り道をした。



下駄箱の靴を仕舞わないで下さい。





「ひっさしぶりだなぁーお前がうちくんの」
祥は自宅のドアを乱暴に開いて孝子を押し込む。
「DVD見るから来いって言ったの祥君でしょ」
靴を脱いでそろえ、行き慣れた部屋に入る。
「汚…」
脱ぎ散らかし置き散らかし流石に食べ散らかしはなかったがお世辞にも人を呼べる部屋ではない。
「パンツくらい仕舞ってよ!」
「わぁったわぁった!母親みたいな事グチグチゆーなっつの!」
衣類を掛け布団の下に突っ込み床を占領する物を蹴散らして
二人分座る場所を作ると彼は客に茶を出すでもなく電子機器のスイッチを入れる。
段々と曖昧になり始めた記憶にしがみつき映画を数本眺めた。
…頭痛い…
そろそろ帰るべきだと思った孝子は祥に告げて立ち上がる。
「明日朝六時半起きで早いし、もう帰るね…」
ふらふらと歩き始めた孝子を祥が腕を掴んで引き止める。
「待てよ」
「…?」
祥は口元をにんまりとあげて笑った。
「それなら6時まではいられんだろ…?」


「……は?」
今度こそ目眩がして孝子はそのまま崩れ落ちた。






目を覚ました時の景色はいつもの天井だった。
やはりまだ頭の奥がチリチリと痛む。
寝ぼけ霞んだ目で頭を動かすと、そこには見慣れない光景があった。
「………!!」
柔らかなまどろみが一瞬にして崩れた。

尊敬する漫画家の画集が、
初版帯付きで集めたカバーのかかった単行本が、
有り金叩いて買った特別版のゲームが、
初回特典のついたDVDが、CDが、

本棚奥に隠してあったあんなものこんなもの…、
一言で言うなら時価数十万の宝が、全部床に散らばっている。
その中央で菓子食いながらまじまじと今月の新刊(※少女漫画)を読んでいるのは
明らかに場に和まないオレンジ頭だ。

「アンタ人の部屋で何やってんのよー!!!」
「ぅうおぁっ!びびったぁーっ」
「それはこっちの台詞だわ!」

飛び蹴りでもくらわさんかの勢いで布団から飛び降りて、孝子は本を奪った。
「汚い手で指紋付けないで!」
「何いってんだよ!それただの単行本じゃん」
「ダマレーッッ!!」
悲惨な有様に頭を抱えヒステリックに泣き叫ぶ。
「なんでこんなぐちゃぐちゃなの!ありえない!勝手に人の部屋漁るなんて!
しかもこれ全部見たのね!指紋付けたのね!いやぁぁぁっっ!」
あまりに変貌した幼なじみに唖然としてしまった祥は言葉がでない。
「い、いや…なんか色々やってたら仕舞い方わかんなくなって…やって貰った方がいいかな…とか…」
「人の部屋で色々やらないで!」
ハンカチ片手にカバーを拭き、端から同じ様に元あった場所に戻しながら、孝子は小声で、
自分だって部屋漁られてエロ本見つけられたら怒る癖にとか
女の子の部屋を何だと思ってんだとか怨みつらみを呟いている。
その光景を呆然と見つめながら祥はただただ座っていた。
「…なんか…部屋ん中変わったよな…」
「…当たり前だよ!」
この年で部屋の中が幼稚園の頃と同じなら問題である。
…今の状態に問題がないかといえば頷き難いが。
「…昔よく遊んだよな」
孝子はふと一昔前を思い出す。
「祥君私のリカちゃんショートヘアにしたよね…」
「あっあれは!だってあの人形は髪が伸びるって!」
「それ怪談話だよ…」
おキクじゃあるまいし…相変わらずな破壊神ぶりだと今更気付いて孝子は笑った。
「…で、何探してたの?」
「!!」
祥が驚いて振り向いた顔がなんとも面白い。
「あの時だって『孝子とお揃い』とかなんとか騒いでたんだから、それなりに今日もなんか探してたんでしょ?」
祥は複雑な表情を隠すように頭を掻きながらぼそぼそと呟いた。
「いや…あの…」
「今更小声になられても困ります」
祥は観念したように俯いて言った。
「昔、大人になったら開けようって箱あったじゃん!」
「あーあ」
その昔、二人でタイムカプセルもどきを作って埋め損ない、孝子が保管していた箱があった。
「捨てたよな!?いや、それならオッケ…」
「取ってあるよ。当たり前じゃん。どうかしたの?」
祥の表情がやけ笑いから真剣になった。
「ちょっ、あれタンマ!不具合あったから全撤去!」
話しながら片付けをしていたのであっという間に部屋は綺麗に戻っていた。
祥は哀願するように手を擦り合わせる。
「何を今更…」
「マジ勘弁して!」
「最後の一言は若気の至りだった?」
「いやもうマジで…は?!」
孝子はにこっと笑った。
「今何月?」
「六が…つ…」
祥の額にすーっと血の気が引いた。
まさか…
「誕生日の日に開けちゃった」
祥が珍しく被害者の顔をして口をあんぐりあけた。
「み…みた…?」
孝子はにんまり笑う。
「えへへ〜」
祥が真っ赤になって顔を押さえてうずくまる。
「マジかよ〜…」
「なんだったの今更急に」
取り返す時間は沢山あったはずだが…祥が口を開こうとするとそれをドアの音が掻き消した。
「お姉ちゃん朝からうるさいよー……祥くん!なんでいるの!?」
現れた妹はパジャマを着て目を擦っている。その後ろにはエプロンの母がいた。
はっとして時計を見ると時刻は六時近い。
「うそ…夕方じゃなかったの…?」
「祥ちゃんてっきり孝子運んで来てくれて直ぐ帰ったと思ったのに…」
「祥君が運んだ?!」
孝子が祥を振り返る。
それより苦い顔をしたのは妹だった。
「…ゴメン、私玄関にあったばっちい靴お父さんの作業靴かと思って下駄箱しまっちゃった…」
「ばっちい言うな!」
「あ、だから祥ちゃんの存在消えてたんだ」
母は特に騒ぐでもなく暢気に笑って部屋から去り始める。
「久子さんったら末息子行方不明でも気付かないのかしら〜
 祥ちゃんなんなら朝食べてってもいいわよ。弁当の残りだけどね〜」
妹も目を擦りながら足早に去った。
部屋には二人が残されたままだ。
「…何で帰んなかったの…?」
「…あー…」
孝子の問いに祥は曖昧な唸り声を上げるだけだった。
「でさ、あの箱…」
「ダメだよ。二十歳の約束じゃん。祥くんは来年までダメ」
「なんだよそれ!不公平じゃん!」
「だーめ。ひみつぅー!」
孝子は笑ってはぐらかす。



最後の一言に返事を書いたことは…

今はまだ秘密だった…













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続くかもしれない。
結局何書いたの?今は?何で今更?とか書けなかった…
楽しいよね。こういうタイムラグものは。
050614