Mission9:心の指定席には超VIPが座ってんだよ。
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この世に絶対の神なんていない

そんなものがいたら

僕は道を踏み外さなかったから


僕が信じるのは

小さな両手で身も心も包み温めてくれるキミ

僕が道を踏み外さなかったのは

神じゃない。キミがいてくれたから…


 

愛しい人はヌードを纏う





温かい体温にまどろみを覚え、ゆっくりと重たい瞼を上げる。
馴れない布団の匂いが鼻を擽り、引き寄せた枕の感触もいつもとは違う。
ここはどこだろう。
片腕が重く、自由がきかない。
暗くぼやけた視界を正そうと目を擦り、やっと暗い原因が目の前の黒い頭だと気付く。
こちらにうずくまるように擦り寄っている隣人は規則的な寝息をたてていた。
重いと感じた片腕は隣人を頭の下で支えていた。
少し体を動かして向きを変え、周りを見回す。
(あ…そうか…足止めくらったんだ…)
異様に強い台風が出掛けた先で直撃し、道を完全に塞がれた二人はモーテルに足止めされていた。
ふと視線を戻すと脇に眠る少女の白く華奢な肩が露になっていた。
(あ…そういえば…)
布団の奥に広がる少女の姿を思いだし、肩を冷やさないように布団を直す。
そんな様子にも全く気付かずに眠り続ける少女を見つめ、顔が火照っている自分に気付く。
「なに興奮してんだよ…」
我ながら恥ずかしくなって大きく体を大の字に延ばした。

傍らに眠る少女は衣服を纏っていない。
ハンガーにかけられた服はもう乾いているだろうけれど。
手をかけない、と震える彼女に誓って布団を全て預けたのだが、そんな自分を彼女は布団の中に入れてくれた。
一年前にあんなに恐い目にあわされて、なんてお人よしなんだろう。
組み敷かれる不安や犯される恐怖を彼女は感じなかったのだろうか…。
それでも、自分を受け入れてくれたのだろうか。
それが彼女らしいと思うと自然と苦笑が漏れる。
生肌から伝わる体温をこんなに温かいと思うことはなかった。
傍らの女性を抱かずともこんなに心満たされると知ることはなかった。
むしろ逆だった。
でも幸せなんて感じたことはなかった。
満たされず、もがくように日々を過ごした。
何故、今、こんなに幸せなんだろう。
ゆったりと、静かに流れる時に身を任せて。
少女の小さな寝息に合わせて深く呼吸して。
こんな時間がずっと続いたら、なんて素敵なんだろう。
二人手を繋いで、足並みを揃えて…
それはきっと有り得ないことだから
彼女にはきっと自分よりも彼女を幸せに出来る人間がいると思ってしまうから
これは刹那だと囁く己に従ってしまう。
そう信じ込もうとするとなんだか無性に切なくて
えもいわれぬ感情に飲み込まれそうになる。
この気持ちをどう表現したらいいんだろう。
この気持ちをなんて呼べばいいんだろう。
この気持ちは相手に伝えられるんだろうか。

傍らを見下ろすと、少女がもそもそと動きこちらに擦り寄って来た。
「えっちょっ…これ以上は…っ」
流石に色々マズイだろうと遮ると、少女の両手は遮る片手を包み込み、指を絡ませて微笑んだ。
「あったかい…」
そう寝言を呟き、緩ませて離した両手を肩口に重ね、幸せそうに再び眠りに落ちる。
そんな無邪気な彼女を声も出さずに自然と笑みを浮かべ見つめていた。
この気持ちをこっそりと、伝えたい。

ゆっくりと腕を延ばし、小さな彼女を包みこんで耳元で囁く。
「愛してるよ…」
なんとなく、面と向かって言うのは恥ずかしくて、避けているけれど。
言ったところで軽くあしらわれて冗談扱いされてしまうのかもしれないけれど。

頬にかかる黒い髪をかきあげ、布団の上から柔らかく抱きしめる。
優しく、温かい。
それだけで、この心は癒される。
幸せを与える神なんていない。
幸せを与えてくれるのは神じゃない。人だ。
そして、自分にとってそれは、彼女だ。
そう、彼女一人だけ。

「どうしたら…君は僕を…信じてくれる…?」


静かな部屋に虚しい呟きが響いた。

自分が自分である限り、無理なのかもしれない。
不便だなぁと思いながら、響は再び目を閉じた。



このひとときの幸せが

終わってしまわないことを祈って…













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050725
短いので詩のなり損ない状態です。
とある嵐の夜2の続きものだったりして。また解りにくいもの作ったわね、な感じで。
話としては読んでなくても解るようにしていますが。
兄夫婦甘甘…響しか台詞ないし!影貴寝てるし!(笑)
折角リク戴いたのに表に置けなくてすみません。え?裏がよかった?じゃあ裏じゃなくてごめんなさい(笑)