2004年3月
私は卒業証書を貰った
…そしてその日
私はもう一枚、卒業の証を貰うこととなる…

 

卒業編〜禁忌の園の結末は

 

夕方響の車で影貴は家に帰って来た。今日は母と過ごすようにと響は言ったが、家には誰もいなかった。
「あれ?ご馳走作って待ってるって…」
影貴はテーブルの上のメモを見て顔をしかめた。

[夜勤が入ったのでパーティーは明日にしましょう。ゴメンね!明日の夕方には帰ります。]

人の命を守る仕事にケチをつける程我が儘ではない。影貴は携帯を取り出し、慣れた手つきで電話をかけた。

 

 

数十分後、影貴は赤い車の助手席で先程の相手と時を共にしていた。

今日の服は赤いフェイクレザーのノースリーブのワンピースに黒いカーディガン。
影貴の細い体に吸い付くようにピッタリとした偽物の皮が、歩く度にカサカサと音をたてる。
整えた爪に丁寧にマニキュアを塗り、胸元には銀のネックレスが光っていた。

結局二人は港から客船に乗り、夜の海で食事を楽しんだ。幻想的に光る海の上で多くのカップルに混ざって肩を組んで遠くを眺めた。以前は随分と気後れを感じていた影貴も、もう戸惑う事は少なくなっていた。少し背伸びをして、どちらからともなく唇を近付ける…

…二人は去年とは確実に違う関係になっていた。

 

深夜、二人は響の部屋に帰ってきた。窓辺の籠のドアが空きっ放しだった。
「妃影ちゃんいないね」
響は笑った。
「夜は活動時間だからね。朝まで帰って来ないよ」
暖房をかけられ、影貴はカーディガンをクローゼットにかかったハンガーにかけ、後ろを振り返ると不意打ちで響に抱き着かれ唇を求められた。響の何かにコードが引っ掛かったのか蛍光灯が消え、辺りは暗くなった…

影貴の息が荒くなってきた頃、響はゆっくりと頭を影貴の胸元に埋めた。
「…本当は…ちゃんとキリをつけて…って…そう思ってたけど…

 イマ 君を抱きたい… 」

影貴の鼓動が跳ね上がった。
「…ぃ…今…?」
影貴の顔がこわばった。響は何も言わない。
「む、無理だよ…わ、私…そんなっ…ダメっ…じっ自信ないよっ…イヤッっ」
影貴は響を跳ね退けようとした。しかし響はビクともしない。影貴の方は向かずに呟いた。
「…僕じゃ嫌…?」
「そんなっ…なんで急にそんな事っ…今じゃなきゃ駄目なの?今…」
影貴は慌ててまくし立てる。
「わ、私なんかっ…先生にそんなことされるような資格ないし、何も…」
そこまで言いかけたところで響にその先を止められた。
「そんな事影貴ちゃんが勝手に決める事じゃないよ。…無理じゃない。自信なんかなくてもいい。傍にいてくれればいい。影貴ちゃんが気にしてるような…そんな外見を僕は求めてるんじゃない…影貴ちゃんを…僕の…僕だけのモノにしたい…」
その言葉を胸に刻み、影貴は震える声を躰の奥から搾り出した。
「…解った…」

響は影貴を包んでいた真っ赤なドレスを絨毯に落とした。それは音もなく床にすい寄せられ、その瞬間響から深い口付けが与えられる。家々の光がカーテンの奥から漏れてくるだけの薄暗い部屋の中に二人の吐息だけがこだました…。そのわずかな光が影貴の姿を捕らえた時、響は静かに微笑んだ。
「…似合ってるよ…ワインレッド…」
細い肩紐に指を掛けると影貴はますます赤面する。響は慣れた手つきでYシャツを脱ぎ、影貴を大きなベッドの中に促した…

「…恐い?」
小さな躯を仰向けに寝かせ、二人は向かい合う。薄い震える肩を抱いて響は耳元に優しく問いかけた。影貴は小さく頷く。
「でも、先生が一緒だから…恐くないよ…」
少女の精一杯の笑顔が響の欲望に突き刺さる…
「好きだよ…」
そう一言だけ告げて、響は唇を軽く重ねた。

小さな肩を抱いて、首筋に透明な筋を残す。 緊張に冷たく固まった影貴は声を殺し、顔を背けた。その躰を温かい手が優しく愛撫する。影貴を全て知り尽くした様に。
「声…我慢しなくていいんだよ…?」
先程から堅く目をつぶった影貴の耳元で響が静かに囁く。影貴は首を振った。
「だっ、だってっ…ひゃっ!」
ずりあげた下着から現れた桃色の突起は響に撫でられ影貴の嬌声を仰ぐ。少しでも動く度に影貴は甘美な叫びを上げた。
「やっ、もぅ…やめっ…」
「そう…もっと声…聞かせて…」
響は意地悪く耳に吐息を吹きかけながら影貴の素肌に再度手を延ばした。影貴の滑らかな肌に響の大きな手が触れ影貴は益々泣きそうな声を上げる。
「…目開けてごらん?」
影貴が戸惑いながら薄目を開けたその瞬間、響は影貴の唇を乱暴に奪った。いつもよりまして深く、息も出来ない程の力で…。
身をよじり逃げようとした影貴は両手首をしっかり捕まれ、身動きが取れない。やっと解放された時、二人の間に銀色に光る絆の糸が走った。
「…センセッ…あん…」
「キョウって呼ばないと痛クするヨ、エイキ…」
首を振って恥ずかしがる影貴を楽しむ様に、響は舌先で目から零れた涙を拾い、唇から漏れた液を舐め、細い躰の線に沿ってゆっくり濡らしていった。最後の砦に指を掛けると影貴はまた抵抗の色を見せた。
「せんせっ」
「ダレのコト?」
口元を上げて響が尋ねる。
「…今更逃げるの…?」
躊躇する影貴を余所に影貴を生まれたままの姿に戻し、膝を立て、入り易くなった入口に指を添わせた。その場所は響から与えられた愛情で初めてとはいえしっかり反応を示していた。
「この音…聞こえる?」
影貴の口を塞ぎ、わざとイヤらしい音を立てる。その音と躰を駆け抜ける感覚に影貴の神経は麻痺寸前だった。指はゆっくりと奥へ進み、少しずつ痛みが増していく。影貴は益々艶美な叫びを上げ、響は本数を増やす。だんだん限界にたどり着き始めた影貴は額に汗をかき、声も出なくなってきた。

「き…きょ…も…ダメ…」
その声に響は指を抜いた。真っ赤になって響に抱き着いた影貴の上に覆いかぶさった響は至福の笑みを浮かべた。

「影貴ちゃん…ココカラダヨ…」

次の瞬間躰中に激しい痛みが走り、辺りは鮮血の香に包まれた。

 

愛シテイルカラ

誰ニモ渡サナイ

 

影貴は極度の痛みの中で、強く響の愛だけを感じていた…

 

 

 

ねくすとー

031001改訂