「三日間程家政婦を雇おうと思うんだっ」

いきなり携帯が鳴ったかと思えばそんな話題だった

「ふぅん、で?」

「たんまり弾もうと思うんだけど、お幾ら程用意すれば良いのかな?」

いきなり人に電話かけて来て話題はそんな事?只でも暑いのに怒りでさらに影貴の頭は熱くなる

「さぁ!?私に聞かれても困るわね!先生の無償(無性?)の愛でも捧げてあげたら?じゃぁね!」

それだけまくし立て影貴は電話を切ろうとした

「じゃあ決まり!影貴ちゃん、貴女を明日から三日間、僕だけの家政婦として雇いますっ!」

「は?」

「明日から擾と尋乃ちゃんがうちの避暑地に旅行行くんだ。一人じゃつまんないし遊びにおいでよ。

まぁそのうち一日は学会が有るからその日は一人で留守番になっちゃうんだけどね」

「明日?う〜ん…解った…早目に行く」

 

こうして三日間、影貴のバイト(?)が始まった

 

 

裏 旅行編。第一日目

 

 

 

第一日目

早朝、いつものように徹夜で仕事をしていた響は玄関の物音に気付いて下へ降りた。案の定旅仕度を済ませた擾が靴を履いている。

「もう出るの?」

「もう起きたのか?」

「これから寝るの」

まさか、朝の三時半に僕がわざわざ起きてる理由なんて一つだろう?

「起きてて正解だよ。渡し損ねるとこだったね」

擾に向かって軽い小さな箱を投げた。

「センベツ。僕のお気に入り。ナカナカ良いから使ってみなよ♪」

擾はいぶかしげに箱を空けている。中身を見て瞬時に蓋を閉めたところを見ると兄の心遣いが解ったらしい。

「何何だこれは?!」

真っ赤になって怒鳴ったところを見ると少しは意識していたようだ、と響は思い口元を上げた。

「知らないの?コン…

「違う!!そういう意味じゃない!!」

彼お得意の冷たい瞳が響を睨みつける。

「そんなに怒らなくても…いいから使ってみなよ♪まぁ使わないほうが気持ちイイけど…やっぱり結婚するまではちゃんとしないとね♪」

これも一種の御教育☆あの快感を味合わせて上げたい気もするけど…志魔村家に失態は許されないのだよっ…にしても

「…まさか僕の弟が…志魔村の人間が二十歳まで童…「煩い!!!黙れ!!」

擾は顔を赤くする。こういうネタで真剣に恥ずかしがる擾は本当にからかい甲斐のある弟だ。

「まぁ楽しんできなよ」

擾は青筋を立てながら玄関の戸を閉めて出掛けて行った。

「とか何とか言って…本当はかなり我慢して毎日過ごしてるクセに…相手を思い過ぎるのは時に良くないんだよ…」

先日相談を持ち掛けてきたしょんぼりした尋乃の顔を思い出し響は誰もいない玄関に呟いた。

「ま、ある意味僕のせいなんだけどねっ」

こうして響の計画は始動したのであった。

 

 

AM 11:00

志魔村家のポストを覗いた影貴は小さな封筒を見つけた。

〜多分徹夜で寝てるだろうからこの鍵で入って下さい。起こす時は脱がし易い服でヨロシク☆〜

阿呆かあのセクハラ教師は…尋乃達も変な事吹き込まれてなきゃ良いけど…

影貴は一緒に入っていた新聞を引っつかみ響の鍵で志魔村家に一人乗り込んだ。

 

やはり家の中は暗かった。

窓という窓を全て開け放し、夏の空気を家に入れる。蒸し暑く蝉の声以外は静まり返った家の中に掃除機をかける。掃除がひとしきり終わってそろそろ昼…という時二階から響が降りてきた。

「あーおはよー」

「な、何て恰好してるの!」

髪はぐしゃぐしゃ、真っ白でだぶだぶのノースリーブのシャツにズボン。勿論眼鏡はしていない…これがいつもの彼なのだろうか…いつぞやに向かえたあの朝の光景の方がまだマシだ。

「んーじょお?なんか声高くな〜い?」

しかも寝ぼけてる。

「先生!自分から呼んでおいて何言ってんのよ!」

その声で目が覚めたらしい。目をパチパチさせるとぽんっと肩を叩いて一言。

「やあ影貴ちゃん!志魔村家へようこそ!」

…テンション違いますよあんた…

「で、何食べたい?」

影貴は呆れて尋ねた。

「えいきちゃん☆」

やっと目が覚めて来たらしい。24歳の大人がこれで教師としてやっていけるなんて日本も末だ…

 

結局影貴はホットケーキを作り響の朝ご飯…もとい自分の昼ご飯にした。響は作った物ならなんでも美味しそうに食べてくれる…影貴にとってはとても嬉しい事だった。

「で、今日の御予定は?」

「そうだな…星の彼方にでも行ってみる?」

 

そう言って響が連れて来たのはプラネタリウムだった。

暗闇の中、静かな声で男性が神話を語る…

まぁなんて彼の好きそうな…と影貴はビクビクして隣を見ると…

寝てる!!!

頭はこちらに向かって傾いているとはいえ考えてもいなかった事態に影貴は目を丸くした。

…後でどんな話だったか教えてあげよう…

影貴はふっと笑った。

「でね!蛇使い座のアスクレピオスっていうのはサソリを踏んでるんだけど、彼は王女コロニスの子で医学の神なの…」

影貴は元々星座の神話自体が好きで多少知識が有ったので自分の知っていた事も織り交ぜペラペラ喋った。

「あ、ちなみにコロニスっていうのは「アポロンとテッサリアの王女…でしょ?」

響はこっちを見て笑った。

「なんだ、知ってたの…」

「いや、さっき聞いたんだよ」

「え?」

「ぼくねぇ、仮眠なら人の話聞きながら寝られるんだよ、合宿の時とか良く人の寝言聞いてた」

影貴は唖然とする。

「さぁ〜て、夕飯は何にしようか?」

「あ、私買い物行くよ!」

影貴はスーパーを指差した。

 

その日は影貴が手料理を披露した。

今日はきっちり12時間労働!

そう言って影貴が鞄を持って帰ろうとすると、響がその手を掴んだ。

「何処行くの?まだお仕事二日間残ってるでしょ?」

「え、だって明日また来るよ?」

「泊まりに決まってるじゃん」

影貴はポカンと口を開ける。

「心配しなくても…着替えは要らないでしょう…?」

口元を痙攣させる影貴を引っ張って響は笑う。

「さぁ〜僕のお嫁様に背中でも流して貰おうかなっ」

 

…家政婦じゃなかったの…!?

 

「ちょっと待って!そんなの聞いてなっ…ひゃっ!」

響は影貴を肩に持ち上げすたすたと歩き始める。

「言ったよね?その日払いで…」

ボクノ無性ノ愛ヲ…

 

「そっそれはちょっとした冗談でっ」

そうこう言ううちに影貴は風呂場の脱衣所の壁に追い詰められ、服の裾に手を掛けられた。影貴のシャツに大きな手がゆっくり滑り込む…

右手は響が押さえているが左手は自由のままだ。しかし影貴は自分の胸元の辺りをしっかり掴むだけで、目と口をしっかり詰むって声を上げないように我慢している…動けないのだ。響は何気ない動きの中にも相手を逃がさない、そんな力を加えてくる。

「どうしたの…反論しなよ…?」

顔を反らし必死に堪える影貴の耳元に空気の様に響が囁く。

手は少しずつ高度を上げていく…ついには妨げになったワイヤーの下に指が起用に滑り込んできた。

「…ぅ…ッ…ん………っ ぁあぁっ」

遂に耐え切れなくなった影貴が、すでに脱がされて腕に掛けられていた響の服を掴んで声を上げる。

その淫らな叫びに響は口元を上げ快感を得る。

響は少しずつ…まるで影貴の存在を手だけで確かめる様に、手は躰中を這って影貴を生まれるままの姿にして行こうとする。

どんなに口をつぐみ、呼吸を我慢しようとしても、響の前では無効と化す。次々にあがる自分でも信じられないような声…

響は時間をかけて脱がした影貴の白い胸元に重く口づける。そして…そのまま指は下に影貴の腰をなぞった…

「細い腰…」

響は微笑みを浮かべながら呟いた。影貴は真っ赤になる。

その日影貴はGパンだった。無駄に手の立ち入る隙などない。しかし…響は前のボタンを開けファスナーを下ろすと、そこから影貴の躰に立ち入った。

「ヤッ…あぁ……やめつっっっ…」

ゆっくりと服が自分のカラダから滑り落ちて行く。

響は細い大きな指で影貴の急所をつこうと、影貴が声を止め静かになった瞬間に指を滑らかに動かした。

しずかな脱衣所に音が響く。

「…は…ハァッ……ぁァッ…!」

影貴は遂に腰が砕けその場によろよろとへたりこんでしまった。

響は静かに口元を緩め、不気味に笑った…

すっかり息が上がってしまった影貴を響は中に連れていき椅子に座らせた。

「さて、お疲れの所ですがもう一仕事ね」

そう言ってタオルを二枚渡すと響は着替えに脱衣所に戻った。

影貴はぐったりとしながら石鹸を掴みタオルを泡立てる。

「…あ…これ…先生のニオイだ…」

泡立ったタオルを顔に近づけると、後ろからシャワーをかけられた。

「先に水を掛けるべきなんじゃない?」

響は影貴の隣にトンと座ると頭から湯をかぶった。

「さて背中でも流して貰おうかなっ」

響の大きな背中にタオルを押し付け体を洗う。響はあくびをしながら気持ち良さそうにしていた。

「ありがと。じゃ次は僕の番ね」

響はおもむろに影貴の頭からシャワーを掛けるとシャンプーを手にとり髪を洗った。人に髪を洗って貰うなんて何年振りだろう…美容院にも行かなくなった影貴にとってはとても気持ち良かった。

 

小一時間後、真っ白な大きめのバスローブに身を包み、影貴は響のベッドにもたれ掛かった。

「のぼせたの?先に出れば良かったのに…」

赤い顔をベッドの上に乗せぐったりした影貴の頬に缶ビールを当てながら響は言った。響も白いバスローブに身を包んでいる。

「…だって…」

浴槽から見た頭を洗う響の横顔に見取れていた…とは恥ずかしくて言えなかった。

湯気で霞んだ風呂の中…鳶色の雫だった髪が整った顎のラインを隠す様に動く。玉になった水が色白の顔をつたう。外し忘れた赤いピアスが時折髪の間から光る。これに見取れないヒトが何処にいるのだろう…影貴は薄れ行く意識の中でそう思った。

 

 

続く