裏 旅行編。第三日目
「ねぇ…起きてる…?」
影貴は響のバスローブからはだけた胸元をつっついて呼び掛けた。響はその声に薄目を開ける。
「んー疲れたからもうちょっと寝させて…影貴ちゃんは平気なの…?」
影貴は顔を真っ赤にする。昨日の響はやはり少し変だった気がした。昨日の電話のせいなのか…何かを忘れようとする様に影貴に接してきているような気がしたが…影貴は響の気が済むなら我慢しようと思った…
「今日はどうするの…?」
いつもより遅い朝ご飯を食べた後影貴は尋ねた。
「そうだなぁ〜今擾の車の分車庫が開いてるから車でも洗おうか」
響は髪を結び腕を捲くると車庫の脇にある水道にホースを繋ぎ、広い車庫の車達に水を掛けた。影貴は電話の小機を引き寄せ手元に置いた。流石志魔村家、車の数は一人辺り2台はある。水遊びをする様に水を掛けて雑巾で窓を拭いていると、電話がかかってきた。響は手が水浸しで出られない。影貴が小機を取った。
「はい、志魔村ですっ、あ、先輩」
電話の相手は擾だった。やっぱりな…と何か悟ったような声で擾は話す。
「あのさ…尋乃がなんか…調子悪りぃみたいだから…もう一泊してくけど…」
「尋乃調子悪いんですか?風邪かなぁ…あのこすぐ風邪引くし…」
そりゃお前がタフ過ぎるだけだろう、と突っ込みたくなったが何せ原因が原因だし…と考えると恥ずかしくなってきたので咳ばらいでごまかした。
「で…お前は大丈夫か?」
「?私?元気ですよ?先輩も風邪には気をつけて下さいね!」
影貴は終始擾の言葉の表側しか読めていない様だった。擾は電話の相手がこいつで助かった…と胸をなで下ろした。
響にその宗を伝えると何故か(と影貴は思った)響は口元を上げてしめしめと笑った。
「仕方ないね、擾はまだまだ下手だから…」
「何が?」
「女性のエスコートが…だよ」
「?…調子悪いの尋乃だよ?」
影貴が余りにも真面目にそんな事を言うので響は吹き出した。
「…っはははっ…僕といれば大丈夫だよ」
ますます解らなくなって影貴は眉間にシワを寄せた。
というわけで影貴の仕事はもう一日増えることになった。
夕方、「三日間の御礼も兼ねて出掛けよう」という響の提案でピカピカに洗われた赤い車に二人は乗り込んだ。
ふと思うところがあったので影貴は先に家に寄って貰い、足りないものを取りに行った。
大きめのバッグに必要そうな物を詰め込む。その時ふと影貴は尋乃と先日買い物に行った時に勧められて買った物達の事を思い出し、タンスの引き出しを開けた。
約十分後、影貴は再び響の車に乗り込んだ。
本日は響お得意のコース、影貴の服を買い、それに合わせて化粧をし、自分のピアスの色を変える…
今日の夕食はイタリア料理だった。
その後は車でひとしきりドライブ…海沿いを通って町中を抜け…家に帰った頃にはもう遅くなっていた。
今回、響と過ごす最後の夜…
多分…今までなんか目じゃない何かが
待ってるんだ……
どんなに鈍い影貴もそれだけは解っていた
風呂上がりの躰にローションを付け、香水を振り…そして尋乃が勧めた…一着の下着を身にまとい、色付きのリップを塗った…
家から持ってきた物で風呂上がりの体を整えた後、響から借りている真っ白なバスローブに身を包み、影貴は先に風呂に入った響が待つ彼の寝室へ…足を運んだ…
扉を開けると、そこには自分と同じ姿で椅子に座り、二つのワイングラスに赤ワインを注ぎ込む、影貴の初恋の人がいた…
「教師としてはだめなんだけどね…フランスではワインは許されてるし…一口どうぞ」
真っ赤なワインを少し口に流し込むと、芳醇な香が影貴を包んだ。クッと残りを飲み干して机の上にグラスを置くと、響が言った。
「美味しかったでしょう?でもこれ以上は駄目だよ、前みたいに泣かれると困るから…」
前…高2の時、影貴はワインを半分飲み干してえらい問題を起こしかけた事があった。あの時の事は響しか覚えていないので何も思い出せない事がかえって恥ずかしかった。
しかし風呂上がりの体には一口でさえもほろ酔いさせる力があった。ふらふらと椅子に座った響に近づき、影貴は響の首に抱き着いた。おやおやと響が影貴を見つめると、影貴は響の首元に柔らかく口づけた。
正面のミラーに響の姿が映る…首元には赤いキスマークがほんのり浮かんでいた…
「良いもの持ってるね」
「尋乃がね…普通のよりこっちが良いって言ったの…」
響の脳裏に楽しそうに笑う尋乃の顔が浮かんだ。
「良い選択だと思うよ…」
響は飲みかけのグラスを机の上に置き、立ち上がってベッドに座り変えた。影貴は響の正面に立った。
「ねぇ…影貴ちゃんは僕の事本当に好きなの…?」
少し酔いが回ってきた響が影貴に尋ねた。
「毎日…この三日間だって…楽しかったけど凄く一方的だったし…自分からは何もしてこないよね…」
響は半ば諦め気味にそういうと影貴を見上げた。影貴の表情はよく解らない。
響はふっと溜息をついて立ち上がろうとした時、影貴は響に抱き着いて唇を攫った。
響はよろめいてそのままベッドに倒れ込んだ。
いつもとは逆の、影貴が上にいる状態…
ふと『こんなの誰かに見られたらどうしよう』という思いが影貴の中を走った気がしたが…
影貴は響への口付けを辞めなかった…
二人の飲んだ赤ワインの香が立ち込める。唇を離す度に香水がなまめかしい香をさせた
影貴が響から放れた時、響は影貴の耳元に何かを囁いた。影貴は響の耳に言葉を反復させる。
二人は互いの帯を外しあい
電気を消した