君は海を見てる

いつも

どんな時も

その視線の先に

何を思っているのだろう…


aqua 第二部 1

 

月が出ない。
月が出ない夜に
人魚は来ない。

月花は今日も
海を見ている。
生まれ故郷の海を。

「月花…」
蔭はコテージのテラスへ繋がったドアを開け、月花を呼んだ。
外からは冷たい北風が入ってきた。
「寒いだろ、入れよ」
身震いをしてそういうと、月花はゆっくり顔をこちらに向けた。
「…月が…もう一週間も出ない…
 私たち人魚は…月を暦にしています。月が出ないことは…海に良くないことが…」
白いワンピースの上にコートをかけ、蔭は言った。
「だからといって空は誰にも動かせない…月花が風邪を引く方が困るだろ…温まろう」
月花の長い髪を撫で、蔭は二人で部屋に入った。





翌朝、目を覚ますと、月花は白い肌に純白のワンピースを着てまた一人で海を見ていた。

「月花…」
慌てて服を着たあとコートを羽織って外に出ると北風が頬を打った。
月花は何故こんなにも寒いのにワンピース一枚で外にいられるのだろう…
月花は振り向く影もなく遠くを指差した。
「あの先に、私の家があります…
もしかしたら、いまはもう…ない、かも…しれませ…」
月花は打ち付ける波の上にしゃがみ込んで泣き出した。
「何を言ってるんだ、月が少し顔を出さなかっただけで家はなくならないし、
きみはもう人間であって人魚じゃない」
「でも家族は人魚です!」
月花は立ち上がって真珠のような涙を零した。
「絶対になにかがおこる!私は、いかなきゃいけない!かえらなきゃ…」
月花はワンピースを砂浜に落とし、何もまとわずに海へと歩いていく。
「月花、やめるんだ!」
蔭が叫んだ瞬間に月花は水の中に姿を消した。

あんな姿で冬の海を泳いだら
彼女は死んでしまう

「月花ァァ!」
波を立てて海の中へ入ったが…月花は見つけられない。
すると、少し先で黄色い光がさして、ずぶ濡れの少女が飛ばされてきた。
蔭の腕の中に納まった少女の体は塩の香に包まれ小刻みに震えている。
砂浜に座らせ、持って着たコートを羽織らせると少女は鳴咽を漏らして泣きはじめた。
「海が、冷たいんです、足では…先に進まない…息が、苦しく、なって…あの場所にいくと、
結界があって、私は、先に、いけない…」
ぼろぼろと泣き始めた少女をどうする事もできず、蔭はただ凍える少女を抱き締めていた。

「なーんか神妙な面持ちですねぇ」
二人が顔を上げると岩から誰かが顔を覗かせていた。
「あなたは…」
「そーちゃんでぇす。よろしくっ」
“そーちゃん”は月花に透明な長い“手”を延ばして握手を求めた。
「あ、あなたっ!?」
月花が驚いて立ち上がると、それに驚いた“そーちゃん”も岩の上に姿を表した。
「えへへ、ただのイカさんですよ」
握手を拒まれた長い手で頭を掻きながら“そーちゃん”は言った。
月花は凄い勢いで彼に詰め寄る。
「貴方海で今何が起こってるかしらない!?解るんでしょ?教えて!」
彼は涙を溜めた月花にたじろきながら言った。
「し、知ってますヨォ…今、王はご病気になられてお子様三人が看病なさってるとかで…、そういえば
長女が海を追放されたせいで後継ぎがいなくて、長男もご結婚はまだだとか…一体誰が王になるので
しょうねぇ?最近は海の中もそんな噂が絶えず物騒なものでございますよ…あれ?」

月花はその場に崩れ落ち、砂浜に涙を零した。
「お父様…お父様が…」
そこでわっと声を上げて泣き出した月花を見て彼は驚いた。
「君がそうなの!?そりゃあよかったぁー、兄様から文を預かりましたよ。どうぞっ」
差し出された手紙には一言、懐かしい兄の字で
『なにがあっても帰ってくるな』

かかれていた…


月花はふらふらと立ち上がると船着き場に向かって歩き始めた。
「げっか?」
「だめよ…いかなきゃ…いかなきゃ私が…」
「無理だ月花やめろ!」
蔭が後ろから抱き着いて月花を止めたが、月花は亡霊のように歩こうとする足を止めない。
「あのぉ〜…アカリに頼んでみます?」
月花は“そーちゃん”の声に振り返る。
「一日くらいは出来るような気もしますが…」


“そーちゃん”は不安の色を交えながらもそう言った。








またなにかが起こるような


そんな予感がした…





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第二部開始。まずは“そーちゃん”登場。もっとキャラ増えるからね!お楽しみに。
実はコレ、プロローグなんで次回は話が全く違います。次の話は月花が去った夏から冬までの海の中の
話。なので続きはまたしばらくあとで。
しかし、今回のは気が乗ってないというか、描写がうまくいかなかった。アクアは綺麗な文を書くよう
に心掛けてるんだけどいまいちだったなぁ…ごめんです…読み直して修業します。

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