淋しさを紛らわせる
それだけの為に
私を使わないで…
+++ aqua 第二部 2 tear +++
月花がいなくなってから、小さな家に変化が起こった。
ここは城下町から離れた寂れた家。
人影もあまりなく活気も感じられず、人は寄って来ない…
そんな家に影貴は一人で住んでいた。
産まれてすぐに両親を無くし、財もなく、城下町に住むことは出来ない。
街の者には哀れに思われ、かといって優しく接する者がいる訳ではなく、逆に田舎者と疎まれる。
もともと両親も貧しかった。
だから、それは平気だった。
しかし、影貴は孤独だった…
そんな影貴を気にかけてくれる親友が出来た。
それが月花だった。
彼女は身分を知っても尚、影貴を親友として慕ってくれた。
影貴のような貧しく教養のない者を城に招待してくれた。
彼女の父は城下町の家を一軒、影貴に設えたいとおっしゃった。
影貴は断った。
形見として残っているのはあの家だけだから。
城下町はめまいがするから。
影貴は所詮、
貧しい身分の者だから。
その帰りの事だった。
あの人と出会ったのは…
門の所で、一人の綺麗な男の人が月花に挨拶をしてきた。
影貴は本物を見たことがないが、トパーズ色とはこういう色なのではないかと思う、
美しい髪と鱗をしていた。
凛々しい瞳とその振る舞いから上流貴族の品を感じ、影貴はその姿に見とれていた。
その人は影貴の方を見てにこりと微笑んだ。
体中が
凍り付くようだった
月花が影貴を紹介すると、その人は嫌な顔一つせずに影貴の手をとり甲に口づけた。
こんな汚い身分の者を
一人の人魚として
扱ってくれた…
その人は名を“響”と言った。
響は愛おしむような手つきで影貴の髪を軽く撫でて
「綺麗な髪だ」
と、言ってくれた。
人に
綺麗だ
と、いわれたのは
初めてだった…
その人は思い出したように何かを取り出した。
それは、真珠の連なった…髪飾りだった。
街で業商人に貰ったのだが自分には必要ないと笑った。
それを影貴の髪に結んだ。
城の中に去って行くとき、彼は
「またどこかで」
と、微笑んでくれた。
それから何年かたって、影貴は響と二人で話す機会をもった。
その時に初めて悟った。
彼は月花を昔から想っていて
あの日自分にくれた
あの“宝物”は
本当は月花に渡したくて
わざわざ買った物で
でも
勇気がなくて
月花の反応が見たくて
わざと影貴に渡したのではなかろうか、と。
影貴に優しくしてくれたのも
気にかけてくれたのも
全ては月花が好きだから
所詮自分は
美しい月花の
『オプション』
それが解った日
影貴は
“宝物”を
土に埋めた…
そして二人は結婚が決まり
その夜
月花は消えた
結局
自分の元には
何も
残っていなかった…
そんな傷を
毎日
えぐりに来る人がいる
今日も彼は
扉を叩く…
「元気?」
美しい髪を揺らし、彼は汚い家に入ってくる。
「甘いもの好きだったよね?お菓子を買ったんだ、食べないかい?」
そう言って小さな机にそれをのせた。
お茶を煎れていると、響は思い出したように背中に向かって問い掛けた。
「何故、あの髪飾りをしないんだい?気に入らなかったかな?」
「…月花に…あげました…」
「何故?」
名前を聞いて彼の声は震えた。
「私には…あんな…月花がつけるような、高価な物は…似合わないから…持ち主に返しただけです」
響はとぼけた顔をする。
何も知らない振りをして…
「何で私に優しくするふりするの?
月花がいなくなったから?
孤独になった私を嘲笑う為?
月花の『オプション』が私だから?
私が貧乏だから?
ただ物珍しいだけで私に近寄らないで!
私に月花を求めないで!
私は…月花の代わりじゃない!」
影貴はそのあとを何も覚えていない。
呆然とした響を残し家を出て、遺跡に来ていた。
何故
ここにきたのだろう…
場違いに置いてある鉢を見て影貴は気付いた。
あの下に
“宝物”は
埋まっている…
ここは
二人の好きな場所
月花を
必要としているのは
自分
泡に溶けた涙を見上げていると、急に背中が重くなった。
響が…後ろから影貴を抱き締めていた
「何故…そんな風に思うんだい?」
怖くて振り向けず、影貴は俯いた
「これを、受け取って欲しいんだ」
響は、小さな包みを影貴の掌に乗せた
包みを開けると、純白の真珠のピアスが虹色に光っていた…
ピアスを男性が贈る…それは婚約の証…まして真珠は最高級の海の産物だった…
影貴は真っ赤になって振り向き、包みを響に押し付けた。
「こんな高価なもの、受け取れません!私なんかにピアス渡すなんて…私の何を見て」
「本当の君を見てるから…君に貰ってほしい」
突き付けられた手を優しく包んで響は微笑む。
「僕は君が自分を思う程、君を貧しいとは思わないよ。身分なんて関係ない。
僕には君が、美しく見える…つけてくれるね?」
響は手の中からピアスを取り出し、影貴の髪をかきあげ、埋もれた耳を撫でた。
その耳についていたのはピアスではなく、珊瑚のかけらだった。
そして反対側の耳には穴の跡があるだけだった。
「…やめてください…私は…ピアスをつける資格なんか…」
戸惑いと嬉しさに耐えられず、影貴は泣き出した。
黒い髪に揺れるピアスを見て、響は微笑む。
「よく似合うよ。君の顔を思い浮かべて作ったんだ」
顔を上げた影貴を見て響は恥ずかしそうに笑った。
「趣味なんだ。あの髪飾りも、自分で作ったんだよ」
その言葉で影貴は急いで鉢を退かした。
「似合いますか…?」
その漆黒の髪には
溢れる涙を反射して輝く
真珠の髪飾りとピアスが
浮き上がって見えた…
ずっと
月の後ろに光る
君を見てた…
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携帯文字数ギリギリ納まった(汗)しかも制作日が会長誕生日↓
甘ったるい勘違い物な上展開早くて御免なさい。
っていうか響何者(笑
個人的には色々直したいけどもう直す気力もないのでこっそり微調整しようと思う。
お待たせしました。次回は別の人です。
030919