異国より現れたる
我を惑わす君…
aqua 第二部 3 r.e.d. 上
月花がいなくなって、彼の身に変化がおきた。
ある日、父に呼ばれて行くと、そこには一人の女性がいた。
「お話とは…そこの方は?」
その女性は異邦の首飾りを身につけ、栗色の巻毛をたおやかになびかせていた。
その隙間からは六つのピアスの光が見える。
優しそうにこちらに微笑みを向けていた。
ぼーっと眺めていると、父は笑って嬉しそうにいった。
「そうか、擾も気になるか!彼女はね、隣の国から着た、新しくこの国の母となる方だよ」
その女性は頭を下げた。
「涼子と申します」
「…は?」
唖然とする擾は我を忘れた口調で言った。
「ま、まてよ!コイツ俺と大して歳かわんねぇじゃねえか!」
「ああ、二つ程上になるが…不都合か?」
そりゃ詐欺だろ、と無言の突っ込みを入れてみるも父は笑顔だ。
「この国の勝手は解らないだろうから、擾、君がしっかり教えてあげなさい」
「新しいお母様?本当?始めましてっ。私、ひろのともうしますっ」
精一杯月花の真似をしてうやうやしく尋乃はお辞儀する。
しかし、やはり末娘は甘えるように縋り付いた。
「えへへっ、お母様ってあったかい」
もう順応している。
涼子は優しく微笑んでいた。
「なんかの間違いじゃねぇの?」
こそっと耳元で恒が囁いた。
「だってよぉ…長男の二つ上なんて正気の沙汰じゃねえよ」
「俺に言うな」
いくらまだ父も若いとはいえ、そんな少女を娶って…あまりに酷ではなかろうか?擾は思った。
「おい、次、街案内するぞ。…尋乃は留守番。迷子になるから」
「ふぇぇ、なんでぇ?」
尋乃を引きはがして恒に渡す。
ぐずりそうな尋乃に「また遊びましょ」と笑いかけて涼子は擾とともに街へ出た。
「素敵ですね、家族仲がよくて…私の国は家族が離れて過ごすので…羨ましいです」
涼子は柔らかく微笑んで擾の隣をついてくる。
「別に敬語使わなくていいぞ」
「いえ…」
先程から二人は街の視線を一身に受けている。
確かに異国の姫が一国の王子である擾といれば目立つのは当然だ。
それ以前に、涼子は美しかった。
「王子様、アクセサリーはまだ必要じゃないのかい?」
アクセサリー屋の店主がにこにこと寄ってきた。
涼子は店先にあった宝石たちに引き寄せられて店主に近づき微笑んだ。
「初めまして、涼子と申します。宜しくお願いします」
その微笑みにやられたのか、店主はどれか一つを擾の名で贈ってあげよう、と言った。
彼は擾と涼子を勘違いしているらしい。
「私、これがいいですわ」
涼子が指差したのは…赤いピアスだった…
「ば、バカやめろ!」
擾は真っ赤になって指差した先をずらした。
涼子は不思議そうな顔をしている…しかし何も聞かずに隣にあった髪飾りを選んだ。
たまたま店主には見られていなかったものの、擾はヒヤヒヤしっぱなしだった。
とにかく変な奴なのだ。
しかし…擾はなにか
心に引っ掛かるものを感じた。
城に帰ると彼女は部屋に戻り、髪飾りを取り替えて擾に似合うかと聞く為だけに部屋まで訪ねてきた。
「上下が逆だぞ」
直してやると涼子ははにかんで俯いた。
「ごめんなさい、初めて見た飾りだったので…あの…変ではないでしょうか…」
「あー…なんで俺に聞くんだ?」
親父に聞けばいいじゃねぇか、と眉間にしわを寄せると涼子は照れながら言った。
「貴方が…選んでくれたから…」
やっぱり、変だ。
翌日からもずっと、涼子は王である父に頭を下げた後は一日中擾の隣にくっついていた。
涼子はとても世話好きで、まだまだ小さい尋乃の面倒をよく見てくれた。
知識や教養も素晴らしく、尋乃も楽しそうに毎日過ごしている。
月花がいなくなってからというものいまいち尋乃に元気がなかったのは事実で、
新しく現れた月花に歳の近い『お母様』に尋乃はべったりだ。
今も膝の上に座って絵本を読んで貰っている。
確かに、涼子はいい母になるだろう。
世話好きで、容姿も異邦的で抜群に美しく、品もある。
しかしその微笑みはあどけなく、少女のようで…まだ后の地位には早過ぎる。擾はそう思った。
まだ年端も行かぬ少女を本当に二人目の后として迎えるのだろうか?
まだ
自分の妃として
入内する方が
正当のような気がする…
しかし、擾は自分を少年だとは思わないから、余計なお世話なのかもしれない。
そんなことを考えながら涼子を見つめていると、顔を上げた涼子と目が合った。
涼子は、その美しい笑みを、擾に向ける。
擾は思わず顔を伏せた。
何故だろう。
何故俺は
顔を伏せる…?
何故
体温が上がる…?
ともかく、
擾は
この
美しい
二人目の
『お義母様』に
心惹かれていた…
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無理矢理二つに切ったので話が変でごめんなさい。
あまり擾がひかれてる感じしませんよね…ごめんなさい。次回頑張ります。 戻る NEXT→