aqua 第二部 4 r.e.d. 下
一週間が過ぎた。
最近では決まった時間に擾の元に来るのが日課になった涼子を擾は待っていた。
市に行く用事があったのだ。
きっと、勝手に出掛けたら、涼子は怒るかもしれない。
いや、
そう思いたかっただけかもしれない…
涼子はやってこない。
数分後、肩を叩かれて擾は浅い眠りから覚めた。
目の前には、美しい微笑みがこぼれていた…
用を足す間、涼子はあの宝石店で時間を潰していた。
「…何見てんだ?」
擾が覗き込むと、涼子は一週間前と同じものを見ていた…
「…行くぞ」
擾は気付かない振りをして城へ向かいはじめた。
自分が
あげられればいいのに…
「あの…」
涼子は部屋へと続く廊下の前で擾を呼び止めた。擾が振り返ると、涼子は丁寧に頭を下げた。
「沢山…有難うございました…とても、楽しかった…。
私は…だめだったけど…きっと…幸せになって下さいね…」
そういって涼子は足早に部屋に戻っていった。
なにがなんだか、よく解らない間に王の部屋にたどり着いていた。
擾が戸を開けて中に入ると、父は残念そうな顔をした。
「親父、一ついいたいことが…」
「私はお前にいいと思ったんだがな…」
父は溜息をつく。そんなことはどうでもよくて、擾は話を続けた。
「…あいつが…赤いピアス欲しがってんだ…買ってやれよ…」
自分が悔しかった。
何故、自分が買うことが許されないんだろう…
父は表情を変えた。
「何故、お前が買ってやらなかった?彼女は…お前がくれるのを待っていたんだぞ…?」
「なにいってんだよ!ピアスは檀那が…」
擾は
ふと
一週間前の事を
思い出した。
「新しくこの国の母となる人だよ」
「お前の二つ上だが、不都合か?」
「なんかの間違いじゃねぇの?」
「長男の二つ上が后なんて正気の沙汰じゃねえよ」
「私、これがいいですわ」
「貴方が…選んでくれたから…」
自分は今まで
重大な
思い違いをしていたのでは
ないだろうか…
擾は何も聞かずに部屋を飛び出した。
「おい!」
勢いよく涼子の部屋を開け、擾は唖然とした。
部屋の中には何もなかった。
中央の机に置いてある髪飾りと紙を見つけ、擾は頭が真っ白になった。
『擾様
私が定められた一週間が過ぎました。貴方の傍にいられないのはとても淋しいことですが、
認めていただけなかったのは私の至らぬ点が多いからだと反省しております。
一週間もお手間をおかけして御免なさい。
短い間でしたが、素敵な思い出を有難うございました。
貴方の事、忘れません。お元気で。 涼子』
擾は髪飾りをひっつかんで、城の外へと飛び出した。
夢中で街の中を駆け抜けて、どの道を来たかは何も覚えていない。
淋しそうな影を捕らえたとき、そこは市の端だった。
「涼子!」
その声でゆっくり振り返った彼女は赤く腫らした目から落ちる涙を懸命に拭っていた。
「受け取れ!!」
おもいっきり手に持っていた箱を投げ付けると、涼子の手の上にピンポイントで落ちた。
箱を開けると、
そこには一週間前と同じ
紅の光があった。
「気付かなくて…悪かったっ!」
すっかり上がってしまった息を整えようと肩を上下させて擾は言った。
「俺は…お前が……っ!?」
肝心な事を言う前に、擾は抱き着かれて言葉を失った。
「嬉しい…」
涼子の頬を伝い落ちる涙は擾の肩に温かく降り注ぐ…
「それからこれ、忘れもんだ…」
髪飾りを頭に結んでやると、涼子はまた、留まりかけた涙を再び落とす…
「ちゃんと…結べて、ます、か…?」
その問いに頷くと、涼子は罰の悪そうな顔をする擾の唇にそっと口付けた。
「ありがとう…」
往来のど真ん中で、擾は力いっぱい少女を抱き締めた。
後日談…
「あの…尋乃ちゃんには…何て言えばいいのかしら?」
涼子が尋ねてきた。
「そのままでいいんじゃねぇの?」
涼子は苦笑いを浮かべてぶっきらぼうな擾に頬を擦り寄せた。
「…あの時のように名前を呼んで下さらないのですか?」
擾はますます後ろを向いた。
「そのうち考える!」
互いに照れる二人の耳には
お揃いの
紅のピアスが光っている…
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無理矢理簡潔。父が体調を壊すのはこのすぐ後ですが、本編に戻る前に暫く修業もかねていろいろやりたいと思います。
っていうかこれ・・・親子・・・(言わないの!それは言っちゃいけないの!
いや、本当はさ、こんなに続くと思ってなくてメインキャラを出そうとヒロノを妹にしちゃって後で相手いなくて困ったんだよねぇー・・・
次も短編です。