それは

小さな頃に

何も知らずにした

子供の約束…

aqua 第二部 5 promise



それは真夏の太陽も和らぐ神無月の初め。
城の中は少し騒がしい。
なんでも家臣の息子が急に結婚したいとか言い出して月花の親友つれてきたもんだから
もめてるとかなんとか。まぁ俺には関係ない。
そんな事を思いながら次男、恒は城を出て門の辺りをうろついていた。

恒は兄弟一のピアス好きで、多くのピアスを持っている。もちろんピアスは皆二つで一組。
しかし、恒が一番気に入っている黄色のものだけ、何故か一つしかない。
それはコハクという、陸で木と呼ばれる植物の樹液から取れる物質で出来ていて、
珍しい上に、形も特注だから世界に一つしかない。
物心ついた時、すでに耳には一つしかついていなかった。

そんな事を考えながら歩いていると、目の前を少女が走って来るのが見えた。
少し頬を赤らめながら恒の前に舞い降りた少女は畏まって頭を下げる。
「あの時は…有難うございました。…私、今日16になりました。お約束通り…嫁がせて下さい…っ」





「へ?」

突然頭を下げられて恒は唖然とした。
不安そうな彼女をよくみると、小柄で長い横髪を頭の上二つで小さく纏め、柔らかいモカ色の
ロングヘアーに淡い桃色の鰭をしている。
長いまつげが目に影を作り、なかなかおしとやかそうな子だ。
「えっと…ごめん、よくわかんないんだけど…」
申し訳なさそうにそういうと、少女は少し残念そうな顔をしつつも髪をかきあげて耳を見せた。
「…あっ!」
「幼い時…貴方が私にくださったものでございます…」
少女の耳には部屋中探しても見つからなかったコハクのピアスが輝いていた。





「ふーん、やるじゃん」
脳天気に擾が答えると恒はあんぐり口を開けた。
「この子が街でピアスなくして困ってる所に見ず知らずのお前がたまたま通りかかって何も知らずに耳
についてるのあげちゃったって彼女は言ってんだろ?お前いいヤツじゃん。結婚しちゃえよ。こいつ可愛いし」
丸っきり他人事に言うと擾はふらふらと部屋を出ていった。
「ちょっ…兄上〜っ」
二人、部屋に残されて恒は途方にくれた。
確かに目の前にいる少女は可愛いし耳には自分のピアスをつけている。
しかし目撃証言がない以上嘘ということも考えられる。
「あ、あのさ…俺なんも覚えてねぇんだ……家に、何か言ってある?」
少女は首を振った。
「誰も信じてくれませんから…何も言わずに来ました」
その言葉に恒は不覚にもほっとした。
「じゃあさ、必ず思い出すから…今日は…いいかな…?」
曖昧にそういうと、少女は淋しそうに頷いて城を出ていった…


「姉上がいたら…なんとかなったかもな…」
恒はふらふらと街が見渡せる窓辺へ寄った。
今日も街は賑わっている。
よくよく考えると少女の名前も聞き忘れてしまった。
「いつの話なんだろ…?」
淋しそうに帰って行く彼女の背中はとても小さくて、恒は自分が凄く冷酷に見えた。
もしかしたら彼女は16になるのを心待ちにして育ってきたのかもしれない。
だとしたらこれ程酷いことはない。

自分はどうしたら良いのだろう。

こっそり月花の部屋に入り、恒は戸棚を開けた。
彼女は昔から日記を書いている。なにか手掛かりがあるかもしれない。
たまたま手にした昔の日記にはあどけない文字での記載があった。

“今日、恒のピアスが一つなかった。話をきくと、レイという女の子がお気に入りのピアスをなくして
困っていたのであげてしまったとか。恒はまだ小さいから慣習をしらなかったのかもしれないけど大丈
夫なのかな?”




「…嘘じゃねぇんだ…」
少女は“レイ”というらしい…その名を繰り返しているうちに、頭に電流が走った。
「“玲”だ!」
確かに彼女にピアスをあげた。しかし彼女の話は少し違う。本当は…あの時が初対面じゃなくて…

恒は日記を棚にしまい、街へと飛び出した。



夢中で街を探す。今何処に住んでいるのかも知らない。
ふと、どこからか物騒な声が聞こえ、恒は立ち止まった。少し奥まった路地に柄の悪そうな男が三人。
その奥に見えるのは…玲だった…。
「おいおい、お前さんにもう婚約者がいるだって?」
「まだひよっこみたいな顔してよくもまぁ、恒っていったら王子サマじゃねぇか」
「本当に本物なんだろうな?夢じゃねぇの?」
少女は小さな体をさらに小さくしてうつむく。
下品に笑いながら男たちは少女を乱暴に壁に打ち付けた。
「お前の話がもしウソだったらうちに嫁いで貰おうぜ、その体磨いとけよ」
「なにやってんだてめぇら!」
恒が勢いよく立ちはだかって睨みつけると男たちはその姿にたじろいてそそくさと立ち去った。

「大丈夫か?…っ!」
振り向こうとすると少女は背中に抱き着いて肩を震わせた。背中を伝う涙が温かくくすぐったい。
「…玲、ちゃんと思い出したぞ」
少女は顔を上げ「本当?」と呟く。
「お前、前に会った時も泣いてたな?」
急に恥ずかしくなって照れ笑いを浮かべると少女は幸せそうに恒に擦り寄った。
「家どこだ?送ってく」
そういうと少女は不思議そうに、なぜ城にはいけないのか、という目で恒を見つめた。
「気持ちは嬉しいんだけどさ…」
すると玲は恒からゆっくりと離れ、諦めの表情で俯いた。
「いやっ、そうじゃなくて…、ほら、今すぐは…いきなりすぎるだろ?」
ウインクすると玲の顔に初めて笑みが燈った。


その微笑みが、幼かった恒が一番最初に見た、心を動かされた顔だった…



その日、恒は玲を家までおくってから帰ってきた。


帰り道、
玲の手の温もりが幸せだった…








 

 


 


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やばい話の主旨がわからん!(汗)
あ、いや、だからね、恒の初恋が実ったんだよ!そういいたいんだよ二年前の自分!(汗

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