月のでない夜が続く

少女は今日も

夜の海に佇む…


+++ aqua 第二部 6 +++



「あぁ?あの娘を人魚に一時的に戻す方法?」
早速尋ねた蒼一に灯明はきっぱり言った。
「あるけど今はないわ。だって魔力とられちゃったんだもの。大体あの娘を戻すイミがないでしょ」
「そうですけどぉ…なんとかなりません?」
長い腕を絡ませ蒼一は灯明に擦り寄った。
灯明は細長い足で讃えた口元の笑みを隠す。
「なければ取り返せばいいのよね…」


「あーにーうーえーっ!」
「だー!もううっせえんだよバカ!」
豪速で近寄って来た恒に擾は怒鳴り散らした。
擾の鰭にしがみついた妹は動く兄に合わせぱたぱたと足鰭を動かし上手にしがみついていた。
「父上の容態が思わしくないんだ。兄上を呼んでるよ」
「ぁんだと…?」
擾は足元の尋乃を担ぎ上げ側にいた涼子に合図し部屋を出た。


「おやじー調子悪いのか?」
「失礼致します…」
擾が扉を開ける。
病床の王は少し体を上げ擾を手招きした。


「擾、もうすぐ敵国が攻めてくるだろう…」
それが王の第一声であった。
「いいか、国の事は兵に任せてある。必ず黒髪の少女から目を離すな」
「黒髪?ああ、月花の後ろくっついてたやつか?」
擾は頷いた王に尋ねた。
「…なんでだ?下々の民じゃねえか」

一瞬、あたりに沈黙が走った。
王が口を開こうとした瞬間…

「おい!今何か音しなかったか?」
恒が眉間にシワを寄せる。
その台詞と共に辺りに爆音が響いた。

「おいおいなんだよ!?」
振り返って目が合った擾を見つめ、王は頷く。

「擾様、その少女を」
涼子の声に擾は踵を返した。
「涼子、尋乃頼む」

部屋を出た擾を目で見送る涼子に尋乃は釘づけになっていた。
「おかぁさま、おにぃちゃんは?」
小さな声に視線を落とし涼子は微笑む。
「大丈夫、すぐ帰ってくるわ…」




城下街を抜け、国境近くにある森の側に小さな小屋がある。
そこには少女が一人で住んでいた。

「なに?」
爆音に慌て、影貴は外に飛び出した。
街の入口から煙が上がっている。
「…な、なんなの」
慌てて家に戻り、影貴はつぶやく。
森に逃げ込もうと支度を整えていたとき、乱暴に扉が開かれ、影貴はその場に固まった。
見たことのない姿の兵が二人。

影貴は逃げようと動いたとき相手の攻撃を受け意識を失った…

「誰かいましたか?」
尋ねられた二人は首を降る。
「はい、しかしただの少女が一人、特に財宝や魔力に関するものもなく…」
その報告も殆ど気にせず蒼一は少女を確認しに部屋に入った。
床に倒れた少女を見た蒼一は何か思い出したように少女の髪を除け耳を確認した。

「…まさか、この女の子…?」



その数分後に擾が現れたとき、部屋は蛻の空だった。







「街の被害は2件程度で済みましたが…国民に動揺が走っております」
初めて軍の少佐を勤めた祥は緊張気味に現状を報告した。
「…そうか…ご苦労」
その言葉を遮るように外から大声が響いた。

「なんだって!影貴がさらわれた!?」
「さ、騒ぐな!」
響の声と共に擾が扉を開けた。
罰の悪そうな顔をした擾と目があい、王は溜息をつく。
「通りで被害が少ないはずだ…」
目を伏せて王は言った。
「なんで?女の子一人じゃん?」
恒は不思議そうに首を傾げた。
その言葉に擾は同調の表情があり、逆に響はむっとする。
「…そうだな、お前たちには話しておこう…」

王は長い髪を一つに束ねその場の人々を近寄らせた。





「…あの娘は目覚めたかい?」
「いいえ、目覚め次第お二人からご連絡が入るかと」
長い髪を後ろにかき上げた隣国の王は憂いある瞳でこちらを見下ろす。
「そうか、ご苦労だったな、恭一」
「いえ…」

すっと立ち上がって背を向けた恭一を眺め椅子に頬杖をついた王は言った。

「…君もいい青年になったねぇ」
苦笑いしながら恭一は振り返る。
「王はちっともお変わりありませんよ」
「なかなか嬉しい事を言ってくれるね、君も」
長い髪をくるくると指で弄びながら王は笑みを浮かべる。
「君もお年頃じゃないか、身を固める気はないのかな?うちの娘に立候補しないかい?」
その一言に真っ赤になって恭一は手を振った。
「とんでもないです!王様の娘に家来が手を出すなど…」
「…そうか、残念だな。君の父上とは旧友だから私は全く構わないんだがねぇ」
意地悪っぽく笑いながら王はゆっくり鰭を動かし側にあったグラスで喉を潤した。

そこへご機嫌にリズムを取って十本足で踊りながらイカが入って来た。

「王サマ王サマ、少女が目を覚ましましたよん」
その報告に王は身を構えた。
「そうか、何かわかったかい?」
イカは首を振り長い日本の足でお手上げポーズを取る。
「いえ。どうやら王のお力が必要なようですよ」
王は頷き指で合図する。

「今すぐ少女を呼んできなさい。恭一、下がってよい」






間もなく王の前に怯えた小さな少女が灯明に連れられてやってきた…




ふと、廊下で恭一は立ち止まる。
「…王って…娘なんかいたか…?」
あまり深くは考えずに恭一は再び廊下を進んだ。



 


 

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お久しぶりなこのシリーズ、休み時間にちまちま書いてたので話が上手く繋がってなくて短めです。
修正が大変でした。(;´・`)
少し人数も増えて楽しくなったかな〜なあくあわーるどです。
次回はまぁ秘密の種明かしとか、毎度おなじみの敵役(適役ではない)な彼とかでてくるやも。

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