FATE 18 欠けゆく月、広がる闇

 

 


思い出せない

自分は、誰だったのか

どんな人生を歩んで来たのか

どうして思い出せなくなったのか

それでも、それに疑問を持たない自分

なぜって

そう思う感情すら忘れてしまったから

わかるのは

隣にいる人間がすべてだということ……

 

 

「憂、聞こえてる?」

声をかけられて、憂はのそりと大きな体を動かした。
頭は常に靄がかかったように薄暗く、記憶という名の景色は何も見えない。
彼の中は、無に近い。

「何かあったの?」
尋ねられて、首を振り再び前を見据えた。

 

「弓月、その後変わり無しかい?」
「ああ、ぼんやりしてるよ」
弓月は手近にあった空の試験管を抜き取り、振った。
「普通の実験体なら処分できたんだけど…ね」
消え入る語尾はまるで、変貌してしまった今の憂のようだった。

 

憂と出会ったのは、弓月がまだ夢を抱いて駆け出しのトレーナーをしていた頃。
お互い未熟だったなりに成長しあっていた。
言葉は通じなくても、心は通じ合っていた、それなのに…

自分が望みすぎたのだ。

怪しい奴らの甘い誘惑に負けて、憂を人の姿にしようとした。

そして

失敗した憂は

すべての感情を失った人形と成り果てた。

 

今も、それは変わらない。
そういえば、もう一人…甘い誘惑に負けて身を滅ぼしたやつがいたな。

一緒に旅をした仲間、良きライバル…
あいつは、あいつのパートナーは、成功したんだ。
人の姿で現れた。飼い主の前に。
やがて二人は恋に堕ちて…

「どっちが不幸だったんだか…な…」
思わず漏れた独り言は、研究室の冷たい空気を揺らした。

 

憂は感情がない。故に喋ることもない。あまりにも応答がないのに耐え兼ねた弓月がハイとイイエの使い方を何とか教え込んだ。
その後も色々と教えはしたが、憂にそこまで回復した様子はない。

多分、もう限界なんだ。
彼がこれ以上元に戻るのは。
これが、禁忌を侵そうとした自分に与えられた罪。

「人は、良いことも悪いことも、報いを受ける運命なんだね…」

憂が返事をすることは

ない…。

 

 

「詩乃、どうした?」
きょろきょろする詩乃にみさとが尋ねると、彼女はこちらをむいて首を傾げた。
「ううん、なんでもないよ。なんかね、声がしただけ」
「声?」
詩乃は頷く。
「誰かがね、言ってるの」

「詩乃、君に会いたかったよ…、って」





 

 

 

 

08/07/20


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放置エバー。やばい。絶対色々忘れてると思うんだ。
あとなにかけばいいんだっけ…うーあー……(汗