FATE 20 満月の宴

 

その部屋には珍しく、光が当たっていた。
いつもは下がっているブラインドが上げられ、広い窓が夜空に曝されているからだろう。
切り取られた空の中には月明かりが交じっているせいか、部屋の端を淡く照らした。
その先は、闇。
その中に低い声が響く。
「鏡一、いるか」
その声と共に、白い白衣がうっすらと闇から現れた。
「はい、蒐様、御用命は?」
「三日後、満月らしいね」
鏡一は首を傾げ答える。
「はい。警戒体制は整えて…」
「月見をしようか」

「…はい…?」

蒐はマヌケ面になる鏡一の方を一度も見る事なく、満ちゆく月を見上げ、笑みを造る。

「欠けてゆく月を眺めるのは、さぞ興なことだろうね…」

 

 

everlasting〜満月の宴

 

「つき、み?」
御影は首を傾げた。
「そう、お月様を見て、綺麗だね、って、いうのよ」
立花は微笑んで、御影の頭を撫でる。
「見て、どうするの?キョウといつも、やってるよ?」
きょとんとする御影に苦笑が漏れる。

満月の夜にしか現れない、香の呪われた姿、キョウ。
彼と毎回必ず会い、月を見ている御影にはその違いがわからない。

「この季節の月は特に綺麗だから、みんなで見ましょう、ってことなのよ」
立夏が微笑んで話すと、御影も満面の笑みを浮かべ深く頷いた。
「うん!みんなで一緒に見ようね!」

 

「月見?なんだそれ、出なきゃいけねーの?」
長めの外ハネを揺らし、彼は乱暴に言った。
「そんなこと言われても…上からの話で…」
「かーっ、めんどくせぇ!」

慣れた足さばきで床のバケツを蹴り上げ、こちらを向き直った。
「速人はどうせいくんだろ?いってやるよ」
「悪いね。そういえば、御影がくるかも、って…」
彼の顔が見る見るうちに変わる…。
「稚陽呂?」
「本当、なのか…?」
今話すべきではなかったか、という考えがよぎった。

 

満月の夜、
草原を明るい月が照らしていた。
草を渡る露は反射してきらきらと輝き、虫の音はどこからともなく奏でられる。

「今更月見とは…無粋だねぇ…」
上からかかる声に御影が顔を上げると、紅と黄金の瞳と目があった。

「キョウ…」
「香が言ってたよ。『厭味か』って」
地面にぺったりと座っていた御影を立たせ、キョウは軽々と抱き上げると、夜空に飛び立った。
「僕は意地悪だからね、君に会いたがってる人がいるけど、会わせてあげないよ?」
首を傾げる御影に微笑んで、キョウは屋根の上に降り立った。

「…御影には、会わせてあげないよ…」

 

「…いねぇじゃん!」
稚陽呂はむっとした顔を隠す事なく速人に向き直った。
「…おかしいな…」
「来たのか。ご苦労。」
二人が振り向いた先には、闇を纏う彼がいる。
「蒐様、これは…」
「せっかく会わせてあげようとしたのに、遅かったらしいね」
蒐は夜空を見上げ、嘲う。
そして、稚陽呂の脇に来ると頬の髪を梳き、漆黒の瞳を覗き込んだ。
「稚陽呂、後少し、我慢するんだよ…?」

普段なら反抗するはずの彼は、黙って立ち尽くし、口を開くことはなかった。

薔薇の刺のように鋭い闇を満月だけが照らしていた…



 

 

 

 

08/09/15


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中秋の名月に…
あーこれ、番外編ですね。しまった本編と話が違うじゃないか。