一人、街の中を歩いていた

いつもいる場所に彼女はいない

街のイルミネーションも、

ショーウィンドウのクリスマスツリーも、

行き交う人々も、

仲睦まじい恋人達も、

みんな



白黒にしか映らない



彼女は、どうしているだろう…



SABRINA


あたりは暗くなっている。
街の中心にある大きなクリスマスツリーにライトが燈り、カラフルな光が街行く人を照らす。
「二人で見ようって約束したのにな…」
きっと彼女は体をめいっぱい使って喜んだ事だろう。

きっと、今頃彼女は…泣いている…

何故あの時いつもの顔を向けなかったんだろう…こうなることは解っていたはずなのに。
別に大きくなった彼女が嫌いな訳じゃない。
心の中にあるのは、
彼女の姿が変わってしまったことへの混乱と
彼女自身が変わってしまったのではないかという不安…

顔が直視できなかったのは、彼女が…


下を見て歩いていた恭一がふと顔を上げた。
暗い空から純白の天使が降りてくる。
「雪だぁっ!」
近くにいた少年が叫んだ。

「…よけいに空しくなるじゃねぇか…」
眩しいショーウィンドウに顔を向け、恭一は足を止めた。


街を抜けるとそこは住宅街。
暗い街灯に家家の明かりが燈る。
どの家からも美味しそうな匂いがする。
子供達の幸せそうな声がする。
雪が積もってきた。
救急車の音が夜空に響く。
恭一は一人、夜空に足音をたてていた。
「さみィな…」
返事はない。
手に下げられた袋の重みが辛かった。
「うっとうしいと思った事もあったけど…いないと寂しいのな…」
今にも名前を呼ばれそうな、そんな気がする…


「っ、きょいち…っ」


…呼んでる…?


顔を上げたとたん、何かが飛び込んできた。


「…っ!?」
「きょぃち……ごめんなさ…」
彼女は泣きじゃくり目をこする。
「私…嫌われて…消えたかった…いなくなりたかった…のに…
 消えられない…きらわれたのに…消えろっていわれたのに…なんで…っ!」

震える彼女を包み込んで恭一は彼女の涙をふいた。

「…嫌われてないから…消えないんだよ」
「…っ?」

彼女は顔を上げる。

「嫌いじゃないよ」


朝、どうしても向けられなかった顔…やっとできた。
「きょぃ…」
何も言えなくなった彼女を力いっぱい抱き締める。
「ちっちゃいとできないな?」
腕の中、彼女は笑顔で何度も頷いた。

「きょいち…私ね、名前…エイキっていうの…」

腕の中の彼女の頭を撫でて恭一は笑った。
「よかったな、えいき」
彼女は再び頷いた。

彼女がくしゃみをして、恭一は彼女の姿に気付いた。
「お前、なんて恰好!」
彼女は白いワンピースにカーディガンを羽織っただけの軽装…靴も履いていなかった。
「救急車の音…恐くて…」
恭一は慌ててコートを脱ぎ、マフラーを巻いた。
「だめっきょいち寒いっ」
「そんな恰好だと死ぬだろ」
コートを羽織らせた彼女を抱き上げ恭一は歩き出す。
彼女は真っ赤になって首にしがみついた。
雪が静かに降っていた。




玄関を開け、雪の積もった彼女の髪を拭く。
居間に行こうとすると、急にドアチャイムがなった。
そこには…見慣れぬ小さな来客がいた。
仲睦まじく寄り添った二人の妖精は不思議な力で宙に浮いている。

「パパ…ママ…」
彼女の声に恭一は振り返った。
「メリークリスマス」
長い髪を後ろにかきあげ、父親は言った。

「どなたかしら?」
両親が奥から出てきた。
「…お久しぶりです…」
懐かしむような声で、二人は両親に挨拶する。両親は驚いて何も言えない。
「貴方が恭一君ね…影貴の面倒を見てくれて…有難う」
蒸栗色のウェーブがかかった髪の母親が恭一に言った。
「こんなに早く大きくなるはずがないのよ、普通あと二年位はかかる筈だったの…普通の子なら…でもね、影貴は…普通じゃないのは貴方も気付いたわよね?」
恭一は頷いた。
「詳しいことは解らないが…私たちがご主人様に会ってから結ばれたから…かもしれないね」
父親は言った。
「きっとまだ大人になるにはなにも身につけていないだろう…影貴、これを」
父親は真珠位の小さな石を取り出した。
「これでもう一度小さな姿に戻れる。あと二年程そのままでいられるよ」
「パパ…」
彼女が手を延ばし石を受け取る前に、恭一はその石をとった。
「これは俺が預かります。もう必要ありません」
「!?」
彼女はうろたえた。
「なんでっ、私戻れるのに…いつもいっ…」
「俺は彼女が大きくなったままでも構わない」
恭一は彼女の冷たい手を握った。
「大きくても一緒にいられるよな…?」
彼女は嬉しそうに頷いた。

彼女の両親は引き留めの甲斐空しく夜空に消えていってしまった。
「これ、やる」
彼女に袋を渡す。
「クリスマスプレゼントな」
袋の中を見た彼女は満面の笑みを見せた。





…くしゅんっ
「ばぁか、あんな恰好でふらつくからだ」
「だって…」
眩しい朝の光が二人の部屋を包む。
「きょいちだって…!」
「お前があんな恰好で…」
恭一が鼻をすすると彼女はぎゅっと抱き着いた。
「あの服お母さんがくれたの。ドレスのかわりに…あのドレス…ちょっとしかきれなかった…」
彼女の頭を撫でて恭一は笑う。
「いいよ…今度はあれ着てでかけような?」
彼女は袋の上に畳まれた白いハイネックのセーターとダークブラウンのスカートを見つめた。
「ありがと…」

笑顔はなにもかわってない…

「きょいち…おやすみ…?」
じっと恭一を見つめ、彼女は合図を送る。
恭一は彼女の目を手で撫で伏せ、紅い唇に軽く口付けた。

「…っ!?」

彼女は恭一から離れた。
「なっなに今のっ、ごっ」
「本当の名前教えなきゃな」
恭一は彼女の頬を撫でた。
「これは“キス”だよ…」
すると静かな部屋に二つの電子音が同時に鳴った。
「な、なんど?」
恭一は体温計を彼女に見せた。
「38度」
彼女は赤らめた頬で笑って自分の体温計を見せた。

「38ど、一緒だねっ!」





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編集後記
なんかこの終わり方二人が裏突入したみたいだし(笑
違いますよ。ただ熱出して二人で寝込んでいるという間抜けな落ちなだけです。

書いて一年以上経って見直すと、かなり拙くて自分で美化して記憶してるな、って思いますよ。
今回のお話は十月からクリスマスまでのお話でした。
実は+番外編があったりしますが。
最初は設定も考えずにただかいていたので変な場所が何カ所か。
第一話メインに少し改良しています。
実際この話を書いてから恭一の身辺の友人たちを埋めていきました…(苦笑)
ふと、これ彩社キャラが演技してるって考えて読むとかなりうけるぞ
とか思っちゃいけません。笑うから。
読んでくれて有り難う御座いました。窓閉じちゃって下さい。

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