男に課された

大人に近づく為の

第一歩

 


SABRINA


ある秋の日の事だった。
家に帰ると両親が笑顔で迎えてくれた。
「貴方にプレゼントがあるの、部屋にいけばわかるわ」
そんな母に御礼を言って部屋に上がると、机の上になにかが置いてあった。

いや、



なにかが



“いた”。




「…ぁ…」
「……!?!?」

足が竦んで動かない。



アレは…

なんだ!?

黒と肌色の物体がこちらを…見つめている!?


よく目を懲らすと、それは推定10cmに満たない…少女だった。
近寄って訝しげに眺める。少女もこちらを見つめている。


「人形…?」
掌に置いて目の前に持っていくと少女が動いた。
「にん、ぎょ…?」 「うわっっ」
驚いた拍子に手の中にいたはずの少女は宙を舞い、机の上にいつの間にか置かれたクッションが入った籠の中に落ちた。
「わ、やべっ」
「ゎ…ゃべ?」
少女は目をきょろきょろさせて言葉を反復する。
状況の読めないまま、少女を引っつかみ再び台所へ向かった。


「母さん!」
「あら恭一、プレゼント気に入った?」
のほほんと構える母に恭一は訴えた。
「なんだよコレ!」
ダイニングの机に叩き付けるように少女を置くと、少女は目を回していた。
「サブリナよ?」
「『よ?』じゃねぇよ!」
母は平然と答える。
「貴方もう18でしょ。そろそろ育てないと間に合わないじゃない。だからつれてきたのよ」
「お前好みで可愛いだろう?」
両親が笑う。
「いや、そういう問題じゃなくて!俺別に欲しくないから!」
そんな彼の主張に耳を傾ける親ではない。
「男も女も18になったら将来の伴侶となるサブリナを自分で育て慈しむ、それが当然じゃないか。最後にはきっちり人間になるよ」
「もう皆育ててるのよ。貴方全然欲しがらないんだもの。それとも好きな人でもいたの?それなら返して来るけど」
「すきなひと?」
六つの目玉がこちらを見つめている。
「まぁともかく洋服を縫ってあげなさい。サブリナだって寒いと風邪を引くんだから」
「かぜ…クチンッ」
父の言葉に相槌を打つように少女はくしゃみをする。よく見ると少女は下着しか纏っていない。
「言葉も君が色々教えてあげるんだよ。このこはなんにも知らないからね」
父は平然と言う。
何故こんなものの面倒を自分が見なければいけないのか、自分には解らない。
さも当然のように受け入れられる両親が許せない。

「こんなンいらねぇよ!気持ちワリィ!こんなん育てる位なら一生一人で暮らしてやる!」


そう言い放ち、恭一は少女を置いて部屋へ駆け上がった。
少女は背中を見ながら不思議そうに首を傾げた。
「恭一…」
母は小さく溜息をついて、小さな少女と向き合った。









いつのまにか部屋でふて寝していた。
目を開けると部屋には西日が差し込み、一番見たくないものが目の前にいた。
眉根を下げ、こちらを覗き込んでいる。
「…きもちわるい?」
「…」
「わたし、いらねぇ…?」
少女は小さな雫をシーツに落とす。
その合図と共に机の脇にあった機械から無機質な声が流れた。
『削除プログラムを発動します。サブリナが不要な場合は直ちに処分をお願いいたします。こちらで記憶プログラムを操作し、お客様の記憶は抹消させて頂きます。』

そこで機械の音は停止した。恭一は少女の方へ振り向く。
「おい?」
少女は動かない。
「?」
手を触れると少女は冷たくなって震えていた…
「おい!?」
慌てて近くにあったタオルで包み、指で体を摩ったが一行に変わる様子がない。
ふと脳裏に言葉がよぎる。
「…服…」
机の上にタオルで包んだ少女を置いて、
恭一は先週末にまとめたボロの中から幼稚園の頃使っていたハンカチを取り出した。
躊躇いもなく四つ切りにして中央に穴を開け少女の頭に被せる。
近くにあったリボンを使いウエストでしぼって結ぶと、恭一はまたその手に少女を包んで温めた。

軽く服を捕まれ見下ろすと少女がこちらを見上げていた。


「すて…ない…?」

恭一は思わず吹き出した。
「窓から放り出す程残酷にみえるか?」
机の上に降ろすと少女は自分の姿を見て嬉しそうに笑った。
こちらに向かって笑いかけるのだがなんと表現すればいいのか解らずもどかしそうにしている。
「ありがとう、だ」
小さな頬を指でつつくと少女は恥ずかしそうに笑う。
「ありがと?…ありがとうっ」
少女につられて恭一も笑った。

ふと思い出した事を恭一は口にした。
「お前名前は?」
「なまえ…え…え…」
少女はなにかを言おうとしたが、言葉に詰まり、首を傾げた。
「わかんねえの?」
「え…ぇ…」
淋しそうな顔をして少女はこちらを見上げる。

「なまぇ、わかんねぇの…いらねぇ…?」
「しつこいなぁー、もう捨てねーよ」
ずっと首を傾げている少女の頭を軽く撫で小さな籠に寝かせる。
「まぁいいや、おやすみ」
少女はにこっと笑って目を閉じた。




少女の名は

なんというのだろう…?



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