FATE11 理由と別れ

 

「蒐様、いいんですか?あの男三人に彼女たちを担当させて・・・」

先ほど男三人が通された大きな部屋

今は別の研究員が通されていた

「仲間内では・・・また逃げられたりしませんか?」

「大丈夫だよ。ほぼ100%の確率でね・・・」

大きな椅子に座っている黒いスーツの男はまたもや無気味に笑った。

「しかし・・・もしも恋愛感情などが生まれると後々厄介に・・・」

「それが目的でもあるんだよ」

「・・・!?」

研究員は意味がわからないらしい。顔をしかめる。

「鏡一・・・君は優秀な割に心配性というか・・・抜けているところがあるようだね・・・」

蒐は椅子から立ち上がると、花瓶に入っていた薔薇の花びらを一枚ちぎった。

「確かに僕はあの三人に『研究員として』といったかもしれない・・・でもね・・・

 彼らのうち二人はとても楽しい性質を持っているだろう?」

鏡一にも意味がわかったらしい。やれやれと肩を上げ、苦笑いを浮かべた。

「確かに普通の人間にはない『楽しい性質』だと思いますよ・・・」

 

二人は顔を見合わせ口元を上げた。

 

我々ニトッテ ニンゲンモ モンスターモ ナニモカモ コノ世ノスベテハ 実験材料 デシカナイ・・・

 

 

 

 

 

「・・・香が・・・たんとうなの・・・」

「そうだよ。幸か不幸か、ね・・・」

香はそういうと御影を床に座らせた。

大理石の床がひんやりと足を包む。

「ここが研究所だって、御影は知ってたの?」

香の瞳が御影を見つめる。

「私は・・・ここから 逃げてきた」

御影は小さな声で初めて自らの事を話し始めた。

「私は ずっとここで・・・この部屋で たくさんじっけんされた・・・ ここでニンゲンにされた

 ここは いやだった ジユウに なりたかった タイヨウのヒカリがみたかった だから・・・ にげた・・・」

御影は香に抱きついて泣き始めた。

「やっぱり・・・ダメなんだ・・・やっとソトにでられたのに やっとジユウになってカオリにあえたのに・・・」

 

アサツユは知ってたんだ。こうなること・・・

 

香はゆっくり御影の頭をなでた。

「絶対に 助け出して見せるから・・・」

香は御影を抱き上げると、培養ケースの蓋に座らせ、自分も横にあった踏み台に乗った。

「無理だ・・・もう・・・出られない・・・」

御影は足を冷たい液の中に浸し呟いた。

「大丈夫。きっと・・・きっと出られるよ・・」

香は御影の肩を支え、落ち着いた静かな声で言った。

「無理なんだ!私には前科がある!このケースからは出れないし、会話も機械を通してしか出来なくなる!」

今 確かに自分の肩を支えているこの手に触れる事も もう ない

「もっと・・・ちかくにいたかった・・・香・・・あったかかった・・・」

御影の白い服が音もなく濡れていった

「・・・立花がこのまえ・・・おまじない教えてくれた・・・

 さみしくなるとき あったかいキモチ わすれないおまじない・・・あるの・・・?」

 

小刻みに震える御影の小さな体を香は抱きしめた。

「絶対に助ける もう一度・・・二人で太陽の下に 行こう・・・!」

大きく澄んだ瞳で自分を見上げる御影に香は顔を近づけた。

 

 

御影は涙目のまま香を見て微笑んだ。

「おまじない・・・? 今までで いちばんあったかかった・・・」

 

  ワ ス レ ナ イ   サ ヨ ナ ラ

 

御影は軽く香を突き放し、自分からケースの蓋を閉めた

“  サ ヨ ナ ラ    カ オ リ   ”

 

小さな涙の雫たちは培養液の中に消えていった・・・

 

 

 

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