午後4時。

今日は頼んであったとあるものが届く日。

わが家には初めて訪れる、小さなパートナー




+ SABRINA2〜U1 1 +


「おかえり。きてるよ。」
玄関のドアを開けると、相変わらず不機嫌そうな顔をした兄が言った。
「ほんと?ありがとっ」
御礼を言って階段を上がろうとすると兄は呆れた。
「あんな面倒なもののどこがいいんだか。」

はて、兄は何もいわないところを見ると彼女でもいるのだろうか?

階段を駆け上がりながらふとそんなことを考えてしまったが、
また詮索すると怒られそうだから黙っておくことにした。

「どんな子かな…?」
どんなサブリナが届くのか、それは本人も知らない。
登録された数多くの中から自分に一番合うサブリナを選んで送ってくれるのだ。
個人的には兄のようなぶっきらぼうよりは優しい子がいいのだが…
実を言うとサブリナなら誰でも良かったかもしれない。
友人が連れていたのを見て、単純にいつでもそばにいる友達くらいに考えていたから。
契約の前にスタッフの人から「育てるからには責任を持って絶対にきっちり育て上げて下さいね」と
念を押された時初めて事の重大さに気付いた。

でも、もう後戻りは出来ない。


「…こんにちは…」
静かに部屋の戸を開け机の上を見る。
用意しておいた服は着てくれたらしい。しかし姿が見当たらない。
「…サブリナさぁーん…?」
辺りを見回しても姿は見えない。

「…どこ…?」

慎重に椅子に座り辺りを見たがやはりみあたらない。
仕方なく、生まれた時からのパートナーの蓋を開けた。
「弾いてたら出てくるかな?」
白い木の道に指を乗せ、静かに指を動かす。
部屋いっぱいに音が溢れた。




「ブラボーっ」
演奏を終え蓋を閉めると途端に上から声をかけられ、驚きのあまり飛び上がる。
すっかり存在を忘れていた。

小さなパートナーは軽快に滑り降り、ピアノの蓋に座った。
「始めまして、服ありがとう」
パートナーは頭を下げる。

「僕の名前はU1(ユー・ワン)です。貴女のお名前を聞かせて貰えますか?」
「あ、私っ、玲ですっ」
あまりの可愛さにぼーっとしていた玲は慌てて頭を下げた。
U1と呼ばれる彼は口だけで笑う。
「貴女の国では漢字の名前があるのですよね?僕は兄弟も多く、地域上もあって変な名前ですので…
宜しかったら呼びやすい名前を考えていただけますか?」



5分程漢和辞書と向き合っている。
いきなり名前と言われても中々浮かぶものではない。
「“ユーワン”ってなんなの?」
そう尋ねると彼は白い紙に傍にあった短いシャープペンの芯を使って“U1”とかいた。
「確かこうだったと思います」
ぼーっと字を眺めるうちに、一つの名前がうかんだ。

「ねぇ、“ユーイチ”はどう?」
彼は顔を上げた。
「可愛い名前ですね」
口元だけで笑う。
茶色い髪に邪魔をされ、瞳は見えない。

「髪の毛邪魔じゃないの?」
「いいえ、まったく」
にこにこと笑みを浮かべ、ユーイチは笑った。

「…目はあるの?」
「ありますよ。ちゃんと玲さんの可愛いお顔が見えてます」
「…っっ」
冗談のような雰囲気を見せない台詞に顔が赤くなる。
「どうしたんですか?真っ赤ですよ?」
ユーイチは再び笑う。
今度の笑みは、理由が解って聞いている…わざとの顔だ。

「よかった、可愛いご主人様で。仲良くしてくださいね」
小さな手を向けられ、こちらも手をだすと、ユーイチは人指し指を両手で握った。

「仲良くしようね、ゆーいちくん」




明日は16の誕生日。
二人は出会った。
この先に何が待っているのか、何も知らずに…







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031116  新連載。最初は短め。何話で終わるか不明。前回より展開凄いかも…(汗