放心状態の玲をベッドに座らせ、

雄一はその向かいに膝をついた。






+ SABRINA2〜U1 3 +







「お兄ちゃんと私…他人なんだって…」
消えそうな声の玲を見つめ、雄一は言った。
「半分は繋がっていますよ…それに…お二人は心の絆で繋がってます…」
その言葉に玲が顔を上げた。
「ね?」
首を傾けて尋ねると、玲は嬉しそうに笑った。

「うん…私のお兄ちゃんは一人だけだよね…」
「僕の大切な人も、貴女、一人だけです…」
小さな肩を抱き締めると玲は驚きの色を見せた。

「貴女が眠りにつくまで、このまま傍にいます。おやすみなさい、玲さん…」




やっと寝息をたてはじめた玲を見つめ、ベッドに腰掛けていた雄一は思わず微笑んだ。

「…大切に育てられたのでしょうね…」

世の穢れを知らぬ少女に先刻の話は惨く映ったであろう…
少女の長い髪を調え、雄一は小さな体に戻った。

「出来ればこれは使いたくないですね…」
一時的に大きくなる力は体力もいるし、なにより自身の成長が遅れる可能性があった。

一刻も早く大きくなって、この純粋な少女を守りたい。
しかし、
たった今、この瞬間も、彼女の傍にいたい。
小さな、無力な姿ではなく、寄り添える“ヒト”として…


寝床に潜り込むと、急に暗い部屋に一筋の光が差し込んだ。

「……っ!!」

…何故こんな時に…!!

ゆっくりとベッドに近づいた大きな影は、玲の枕元に膝をついて座った。
静かな目でこちらを見つめている。
ゆっくり影は手を延ばし、頬にかかった長い髪を脇に除けて、少女の頬を包んだ。

「……玲……」

暗闇の中で義妹を見つめる兄の瞳は優しさに溢れているように、雄一には映った。

「…もう、普通には話してくれないだろうね…。」




「まだ、
玲の兄でいたかったよ…。」



「っ!?」
その言葉を遺したまま、秀は立ち上がった。

もしかしたら、
彼は本当は隠していたかったのかもしれない。
彼が真実を話したのは
彼女が傷ついてしまったのは

自分のせい…?



秀は部屋の戸を開け、思い立ったように振り返った。

「誕生日おめでとう…おやすみ…」








翌朝、玲はポケットに雄一を忍ばせ恐る恐る階下に降りた。
いつもと同じ、朝の風景。
兄は無表情のまま珈琲を口にし、新聞を見ていた。

「お早う、お兄ちゃん…」

「お早う」
こちらを振り向く様子もない。
玲は静かに椅子に座って適当に食事を済ませた。
すると母が残念そうな顔をして言った。
「秀、本当に一人暮しするの?」
「…え?」
突然の一言に玲は言葉が出ない。
「近々引っ越す。ここにいても邪魔そうだし。」
目は新聞に向けたまま、秀は言った。
「いない方が楽でしょ。」
秀は立ち上がると台所を出ていった。




その晩、自宅に電話が入った。
「もしもし?」
「僕だけど。」
「あ、お兄ちゃんっ?今日の夕飯ね、私が…」
秀は電話口の向こうから静かに言った。
「帰り遅くなるから、夕飯いらない。伝えといて。」
簡素な電話は玲の返事を待たずに切れた。



「わたしの…せいかなぁ…」
玲はずっとふさぎ込んだ顔をしていた。

「お兄ちゃん、私のこと嫌いになっちゃったよね…きっと…」

玲はベッドに座ったまま俯いて動かない。

「私が、何も知らずに、サブリナなんか、連れてきたから…っ」
「玲さん」
雄一は諌めるように言った。

「僕は、貴女に会ったことを後悔していません…」
「…ぁ…」
目の前で話を聞いているのは紛れも無く、サブリナなのだ。

「ご、ごめんなさ…」
玲はついに大きな瞳から涙を零した。

「わたしっ、自分ばっかりで…いつも、人に頼ってて、私…さいてーだ…嫌われたって、仕方ないです…」

「玲さん……」

膝の上にいた雄一は玲の肘に手を添えた。

「私は嫌いになりません。お兄さんも、玲さんを、心から大切に思っていますよ…」



少女に届くだろうか、

この真実の想いは…



少女は知らない。
秀は兄として、男として、
本当に玲を愛していることを。


それは、自分の想いなど足元にも及ばないことを…



自分には“お兄ちゃん”の穴を埋めることは出来ない。





「…世の中酷ですね…」

寝静まった少女を見つめ、雄一もまた彼女の頬を優しく撫でた。


「せっかく対等な大きさでいられるというのに…
貴女が夢の中だと思うと、淋しく思いますよ…」



愛くるしい少女の唇に触れ、雄一は時計を見上げた。

「…昨日と同じ時間ですね…」



遠くから静かに足音が聞こえてきた…









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031119  暗!暗いし!もっと明るくいこうよ!もう原曲は完全に無視されていると思われ…