16歳の誕生日

家族の秘密を知ってしまった日





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それは平凡な朝。
“雄一”と名の付いたパートナーを大切に腕に抱いて、玲は居間へ入った。
「お早うお兄ちゃん」
「お誕生日おめでとう。」
兄は笑顔を向けてくれた。
「プレゼントは夜にあげるよ。」
「プレゼントくれるの!?」
玲が尋ねると兄はコーヒーを飲んでいた手を止め、頭を撫でた。
「当たり前。」

「仲が宜しいんですね」
腕から雄一が顔を出すと、たちまち兄は表情を変えた。
「いたの、チビ。」
「雄一と申します、お兄さん。お早うございます」
頭を下げると兄はケッと吐き出すように言った。
「兄さんなんて気持ち悪い。吐き気がする。」
雄一は動ぜずに笑った。
「では、秀さんとお呼びしましょうか?」


彼は玲の五つ上の兄、秀。
妹には優しいのだがほぼ全ての物をうとましそうに過ごしている。
自分もその一人であることを昨日の段階で雄一は悟っていた。





夜、家族四人が食卓を囲む。
普通の家族の普通の光景。
ケーキを食べているとき、早々とかけらを食べ終えた雄一が玲の皿に手を延ばした。
「はい」
ケーキをほぐしてやると雄一は笑顔を浮かべ、スポンジをほおばった。
「可愛いわねぇ」と母は笑う。
気付くと雄一の長い髪は所々白くなっていた。
「ティッシュ…」
雄一は机の端にあった箱に手を延ばしたがいまいち高さが足りない。
隣にいるのは睨みを利かせる兄だ。
「…お兄さん、一枚取っていただけます?」
なるべくやんわりと尋ねると兄は何も言わずにティッシュを出して、それに雄一を包んで玲の前に転がした。
「お兄ちゃんっ!なんで雄くんいじめるの!?」
焦点の合わない視界でこちらをみあげていた雄一は玲を宥めた。
「ははは、たまに小さなものいじめてみたくなりますよ」
「でもっ…」
自分に昔から優しくしてくれた兄がこんな乱暴をするとは思えず、玲は受け入れられない事を悲しく思った。

「後で…話あるから一人で部屋きて。」
立ち上がってそう告げると、秀は部屋から消えた。





夜、パジャマに着替えた玲は兄の部屋の戸を叩いた。
「お兄ちゃん?」
机に座っていた秀は作業を辞めこちらをふりむく。
「おいで」
そう言った秀は立ち上がってチェスト迄行くと引き出しから小さな箱を出した。
「16歳の玲へ。」
笑顔で箱を受取り包みを開けると、中には小さな指輪が入っていた。

「可愛いっ」
銀の指輪には緑の石で四つ葉の模様が入っている。
左中指にそれをはめ、玲は空にかざした。

「場所が違うよ。」
秀はゆっくり指輪を外し、隣の指にはめなおす。

「やだなぁお兄ちゃんたら……っっ!?」
吹き出した玲を、秀は強く抱き締めた。

「もう…お兄ちゃんなんてよぶな…」

突然変わった口調と意味不明な行動に頭が錯乱する。
「もう16だから…玲にも真実を伝えた方がいいと僕は思うんだ。」
秀は玲を腕に納めたまま告げた。

「僕たちは血が繋がってない……僕は父親の…連れ子なんだよ。」
「!?」
秀は続けた。
「父さん…なんて呼ぶ価値もない。アイツは最低な男だよ。
母さん妊娠させて、僕が生まれた後も別の女作って、僕の母さんは精神病で死んだ。
君の母さんはね、あんなヤツを愛して、子を宿した。生んでシングルマザーになろうとしてたんだ。
それをアイツがみつけてね…親に自分が父親だと白状して二人は結婚した。

浮気をしてもよいという隠れた条件で。

今だって…何で毎日帰りが遅いか知ってる?僕達の裏でなにやってるか解ったもんじゃないよ。」

玲は言葉も出ない。
「よく覚えてるよ。玲が生まれた日の事も、今まで毎日一緒に過ごした日も…
僕は決めてた。
玲を、守っていくって。

でも。」

壁を背にした玲を見下ろし、秀は玲を見つめた。
「見事に裏切ったね。僕よりもあんな小さな怪物に。
裏切りの最低な血は受け継がれているわけだ。
僕にも。


玲、君にも。」

「っ!」
乱暴に顎を持ち上げられる。
「今のうちにさ、さっさとあのチビ、処分しなよ。」

恐くなって目をつぶっても近づく秀の影が濃くなるのが解る。





「やめていただけませんか?」
その声に秀は振り返った。
目の前には見慣れぬ長身の男。
目は…見えない。

「ゆ…いちく…?」
「玲さんから離れて下さい」
やんわりと、威勢のいい声で雄一は二人の間に割って入った。
「チビ、おまえ…っ!」
「心外ですねぇ、僕の方が今は大きいですよ」
雄一は2m近くの高さから秀を見下ろしていた。





「大丈夫でしたか?」
自身のベッドに座った玲は頷く。
ひざまづいた雄一は言った。
「この力は主人を守るべき時の為にあるもの、一日五時間が限度ですが…人間の大きさになれます」
雄一は指輪の光る左手を握った。

「いつも、そばに、いますから…」

雄一の大きな腕が玲を包む。


玲は真実が飲み込めずにいた。










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031117  秀別人。やっぱ擾がよかったかなぁ…